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- テーマ: ビジネススキル
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AI共存時代の管理職に求められる「余白設計力」とは――管理職・メンバー・企業人事に求められる役割
「部下がAIを使うようになったが、本当に考える力が育っているのだろうか」
「1on1やコーチングを導入しているのに、メンバーの主体性が高まっている実感がない」
「どこまで任せ、どのタイミングで支援すればよいのかわからない」
生成AIの普及によって、管理職を取り巻く環境は大きく変わり始めています。
情報を整理する。文章のたたき台をつくる。選択肢を提示する。一般的な助言を行う。これまで上司や先輩が担ってきた役割の一部を、AIが迅速に代替・支援できるようになりました。
一方で、仕事はAIとの対話だけで完結するものではありません。企業方針や顧客の状況への対応、複数の選択肢からの判断、周囲を巻き込む活動、経験から学ぶことなど、こうした判断や成長のプロセスには、依然として人間の関与が欠かせません。
AIが正解らしい答えを瞬時に示す時代だからこそ、管理職には、答えを早く与えること以上に、本人が考え、判断し、試し、経験から学ぶ余地を意図的に残す力が求められます。
本記事では、この力を「余白設計力」と定義し、管理職、メンバー、企業・人事それぞれに求められる役割を整理します。
この記事でわかること
- AI共存時代に、管理職の価値はどこに残るのか
- 「余白設計力」とは何か
- 自律的な成長を生む「5つの余白」
- 感情は5つの余白を支えるもの
- 放任・丸投げとの違い
- 余白の幅は、相手と仕事によって変える
- 管理職本人が余白設計力を高める方法
- メンバー側に求められる「余白活用力」
- メンバーが余白を活用する5つの行動
- 企業・人事に求められる役割
- 余白を組織の成長力へ変える3層構造
- AI時代に管理職が手放すもの、手放してはいけないもの
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AI共存時代に、管理職の価値はどこに残るのか
情報を持っているだけでは、優位性になりにくい
これまで管理職の価値の一部は、知識や経験、社内情報を多く持っていることにありました。部下よりも多くの情報を持ち、状況を整理し、正解や手順を示す。こうした関わり方は、長年にわたって一定の合理性を持っていました。
しかし、生成AIによって、この前提は変化しています。
AIを活用すれば、情報収集、論点整理、文章作成、壁打ち、一般的なアドバイスまで、短時間で行うことができます。部下にとって、上司へ質問するよりもAIに尋ねた方が、早く、心理的な負担も少なく、一定水準の回答が得られる場面は増えていくでしょう。
だからといって、管理職の価値がなくなるわけではありません。
むしろ、AIが情報整理や一次的な助言を担えるようになるほど、管理職には次の役割が強く求められます。
- 何を問うのか
- 何を判断するのか
- どの選択肢を採用するのか
- 誰をどのように動かすのか
- どのような経験を通じて、何を学ぶ機会をつくるのか
- 組織として結果をどう引き受けるのか
AIは、問いを考える材料や選択肢を提供できます。しかし、現場固有の文脈を踏まえて意思決定し、結果への責任を引き受けることまではできません。
管理職の価値は、正解を多く持つことから、判断と成長のプロセスを支えることへ移りつつあるといえます。
「余白設計力」とは何か
答えを与える人から、成果と成長の余白を設計する人へ
本記事では、余白設計力を次のように定義します。
余白設計力とは、相手が自ら意味づけ、考え、判断し、経験から学ぶ余地を意図的につくる力です。
具体的には、相手の状態と仕事の特性を見極め、志向・思考・判断・試行・内省の各段階で、本人が主体的に関与する範囲を設計し、必要な支援や介入を行いながら、成果と成長を両立させるマネジメント能力です。
ここでいう余白は、何も決めないことでも、自由にさせることでもありません。
成果基準や守るべき境界を明確にしたうえで、答えや方法をあえて決め切らず、本人が考え、選び、行動するために残された「未決定の領域」です。
たとえば、管理職が仕事の目的、期限、品質基準、守るべきルールまで曖昧にしたまま仕事を渡せば、それは余白ではなく、放任・丸投げになりかねません。
余白設計では、目的や境界を示したうえで、本人が決める部分を意図的に残します。
- どの方法を選ぶか
- どの順番で進めるか
- 誰に相談するか
- どのような提案にするか
- 失敗から何を学ぶか
こうした領域を本人に委ねることで、仕事は単なる作業ではなく、思考、判断、経験、成長の機会になります。
余白設計を考える際に管理職が留意したいことは、答えを手放しても、成果と成長への責任は手放さないということです。
自律的な成長を生む「5つの余白」
余白設計力は、単にメンバーへ仕事を任せる力ではありません。
AI共存時代において、本人が仕事を通じて自ら考え、判断・実行し、経験から学んでいく。その成長の質を高めるために重要となるのが、次に挙げる「5つの余白」の扱い方です。
① 志向の余白
「何を実現したいか」を自分なりに意味づける
志向の余白とは、本人が仕事の目的や意味、自分が実現したい状態を考える余地です。
管理職が目的まで一方的に決めて説明するだけでは、メンバーは「言われたから行う」という受け身の状態になりやすくなります。
次のような問いによって、本人が仕事を自分なりに意味づける機会をつくります。
- この仕事を通じて、誰にどのような価値を届けたいですか
- 今回、あなたが特に大切にしたいことは何ですか
- どのような状態になれば、良い仕事だったといえますか
- この経験を、今後の成長にどうつなげたいですか
管理職が示す会社や組織の方向性と、本人が大切にしたい価値を結びつけて考える機会をつくることが、志向の余白設計です。
② 思考の余白
答えを受け取る前に、自分で問い、考える
思考の余白とは、上司やAIの回答をそのまま受け取らず、前提、因果関係、選択肢を本人が考える余地です。
部下から相談されたとき、管理職がすぐに正解を示せば、その場の業務は早く進むかもしれません。しかし、それが繰り返されれば、本人が考える機会は減っていきます。
たとえば、
部下:
「この提案書は、どこを直したらよいでしょうか」
管理職:
「相手が最も知りたい点はどこだと思いますか」
「その判断の前提には、どのような背景や仮説がありますか」
「反対の立場から見ると、どのように見えますか」
と問い返すことで、思考を深める余地を残します。
管理職が答えを持っていても、あえて問いを返す。このさじ加減が、余白設計力の重要な要素です。
③ 判断の余白
選択肢を比較し、自分で選ぶ
思考しただけでは、仕事は前に進みません。
判断の余白とは、本人が複数の選択肢を比較し、判断基準を持って一つを選ぶ余地です。
また、管理職は、すべての判断を本人へ委ねる必要はありません。判断してよい範囲と、上司へ相談して欲しい条件を明確にします。
- どこまで本人が決めてよいのか
- 何を超えたら相談するのか
- 何を判断基準にするのか
- 誰の意見を確認する必要があるのか
を事前に合意しておくことで、本人は安心して判断できます。
重要なのは、「正しい選択をしたか」だけでなく、なぜその選択をしたのかを説明できることです。
④ 試行の余白
小さく試し、現実から学ぶ
試行の余白とは、失敗しても立て直せる範囲で、まず行動し、結果から学ぶ余地です。
頭の中で考え続けるだけでは、現場で使える能力は育ちません。実際にやってみることで、初めて想定と現実の違いが見えてきます。
- 提案の一部を任せる
- 小規模な顧客や案件から担当させる
- 会議の進行を任せる
- 改善案をいったん試させる
- 中間報告の条件を設定したうえで判断を委ねる
といった形で、試行の範囲を設計します。
ただし、試行の余白は、無条件に広くすればよいわけではありません。
顧客への重大な損失、法令違反、個人情報や機密情報の流出、安全上の事故など、回復が難しいリスクについては余白を狭め、管理職による継続的な確認と、必要に応じた明確な介入が必要です。
⑤ 内省の余白
経験を、次に再現できる学びへ変える
経験をしただけで、人が自動的に成長するわけではありません。
内省の余白とは、実際に起きたことを振り返り、経験の意味を言語化する余地です。
- 実際には何が起きたか
- 当初の想定と何が違ったか
- どの場面で感情が動いたか
- 何がうまくいったか
- 何がうまくいかなかったか
- 次は何を続け、何を変えるか
といった問いをもとに対話します。
経験は、本人が振り返り、周囲からのフィードバックも踏まえて意味づけることで、次に再現できる学びへ変わります。
内省の結果は、次の志向、思考、判断、試行へとつながります。5つの余白は直線ではなく、循環する成長プロセスなのです。
意志や感情は5つの余白を支えるもの
仕事上の意思決定は、論理だけで行われるわけではありません。
自信、使命感、納得感、誇り、不安、迷いなどの意志や感情は、本人の志向や思考、判断、行動に大きな影響を与えます。
そのため、余白設計では、思考や判断を支える「理」への働きかけと、意志や感情を支える「情」への働きかけの両方が重要になります。
そして、その両方を支える基本となるのが、管理職とメンバーの対話です。
●「理」を支える対話
- 前提を問い直す
- 選択肢を広げる
- 判断基準を整理する
- 因果関係を確認する
●「情」を支える対話
- 何に不安を感じているかを聴く
- 本人の強みや自信を引き出す
- 動機や価値観を言葉にする
- 失敗時の感情を受け止める
意志や感情は、独立した6つ目の余白というよりも、志向・思考・判断・試行・内省のすべてに影響する、横断的な要素といえます。
余白の幅は、相手と仕事によって変える
余白は、広ければ広いほどよいわけではありません。
同じ仕事でも、相手の経験や状態によって、適切な任せ方は変わります。また、同じ相手であっても、仕事の難易度やリスクによって、残すべき余白の幅は異なります。
管理職は、次の3つの段階で余白の幅を調整します。
① 相手を知る
- これまでの経験
- 知識や能力
- 意欲や自信
- 本人の志向
- 不安や感情
- 上司との信頼関係
本人が何をどこまで経験し、現在どのような状態にあるのかを捉えます。役職や年次だけで判断せず、その仕事に対する準備度を見極めることが重要です。
② 仕事を見極める
- 仕事の目的
- 難易度
- 緊急性
- 失敗した場合の影響
- 顧客や社外への影響
- 法令、安全、情報管理上のリスク
失敗しても立て直せる仕事なのか、管理職が途中で確認・介入すべき仕事なのかを見極めます。
③ 余白を調整する
- どこまで任せるか
- どの段階で確認するか
- 何を相談条件にするか
- どの程度の支援を置くか
- いつ介入するか
相手と仕事の見立てをもとに、本人が考え、判断し、行動できる範囲を設計します。
本人の準備度が低く、仕事のリスクが高い場合には、余白を狭くし、手順や判断基準、相談条件を明確にします。
一方、本人の準備度が高く、仕事のリスクが低い場合には、判断、実行、振り返りまでを広く任せることができます。
また、同じメンバーでも、経験のある業務と初めての業務では準備する度合いが異なります。相手を固定的に評価するのではなく、その時点の相手と仕事の組み合わせを見立てることが重要です。
こうした見立てと調整を適切に行うためには、管理職自身も、日常の関わり方を振り返りながら余白設計力を磨いていく必要があります。
管理職本人が余白設計力を高める方法
余白設計力は、考え方を理解するだけで身につくものではありません。
日常の仕事のなかで、自分の関わり方を少しずつ変え、その結果を振り返りながら改善することで高まります。
① 自分が「答えを言いたくなる場面」を知る
まず、自分がどのような場面で、すぐに答えや指示を伝えたくなるのかを振り返ります。
- 時間に余裕がないとき
- 相手の説明が不十分なとき
- 自分のほうが答え(正解)を知っていると感じるとき
- 失敗が心配なとき
- 自分の評価への影響が気になるとき
- メンバーの判断が遅いと感じるとき
答えを伝えること自体が問題なのではありません。
重要なのは、なぜその場面で答えを急いでしまうのか、結果として本人が考える機会を狭めていないかを理解することです。
② 答える前に、問いを返す
相談を受けたとき、すぐに答えを示す前に、次のような問いを返します。
- 1.あなたはどう考えていますか
- 2.何を基準に判断したいですか
- 3.次に何を試してみたいですか
本人がすでに考えていることを確認したうえで、必要な観点や情報を加えることで、思考の余白を残すことができます。
③ 任せる前に、条件を確認・合意する
仕事を任せるときには、少なくとも次の4点を本人と確認します。
- 1.目的と期待する成果は何か
- 2.本人が決めてよい範囲はどこか
- 3.どのような場合に相談・介入するか
- 4.どの段階で確認し、いつ振り返るか
条件を明確にすることは、本人の自由を狭めることではありません。安心して考え、判断するための境界をつくることです。
④ 小さな判断から任せる
単なる作業だけでなく、複数の選択肢から本人が選び、理由を説明する仕事を任せます。
- 会議の進め方
- 顧客への提案方法
- 小規模な予算配分
- プロジェクトの優先順位
- 他部門との調整案
- 業務改善の方法
- メンバー間の役割分担
最初から大きな判断を任せる必要はありません。失敗しても立て直せる範囲から始め、相手の成長に応じて余白を広げていきます。
⑤ 経験後に短く振り返る
仕事が終わった後は、結果の確認だけで終わらせず、次の3点を振り返ります。
- 1.何を狙っていたか
- 2.実際には何が起きたか
- 3.次は何を続け、何を変えるか
短時間でも振り返りを続けることで、経験を次の判断や行動に生かせる学びへ変えることができます。
部下からの率直なフィードバックを数値で捉え、自身の問いかけや任せ方を客観的に振り返ることで、AI時代に求められる「余白を設計するマネジメント」への第一歩を後押しします。
メンバー側に求められる「余白活用力」
ここまで見てきたのは、管理職が相手と仕事を見極め、成長につながる余白を設計する力です。
ただし、余白は管理職がつくるだけで機能するものではありません。メンバー自身が、その余白を使って考え、判断し、行動し、経験を学びへ変えてこそ、仕事の成果と成長につながります。
本記事では、余白活用力を次のように定義します。
余白活用力とは、管理職から与えられた、または自ら確保した余白を活用し、志向・思考・判断・試行・内省を循環させながら、仕事の成果と自分自身の成長へ結びつける力です。せっかく管理職から、成長につながる余白や支援が与えられても、
- 指示がないから何もしない
- AIに結論を出させて終わる
- 失敗を恐れて判断を避ける
- 判断を上司に戻し続ける
- 実行後に振り返らない
という状態では、成長にはつながりません。
一方で、余白を「自分で考え、行動するための機会」と捉え、自分が目指す状態を考え、問いを立て、選択し、まず試してみる人もいます。そして、うまくいったことも、うまくいかなかったことも振り返り、そこで得た学びを次の仕事や成長へつなげていきます。
この違いを生むのが、余白活用力です。
余白活用力は、与えられた余白を主体的に使うことだけを意味するものではありません。必要に応じて、考える時間や判断できる範囲、受けたい支援などを自ら求め、状況により調整することも含まれます。
つまり、余白活用力は、次の二つの側面から成り立ちます。
① 与えられた余白を、成果と成長にいかす力
管理職が残した余白を使って、仕事の目的を自分なりに意味づけ、前提や答えを問い直し、判断基準を持って選び、実際に試し、経験から学ぶ力です。
② 必要な余白を、自ら確保・調整する力
結論を聞く前に自分で考える時間を確保する、自分が判断してよい範囲を確認する、自分の案を持って相談するなど、必要な情報や支援、確認の機会を自ら求める力です。
管理職は、成長につながる余白を設計する。
メンバーは、その余白を主体的に活用する。
この両方がそろって初めて、余白は自律的な成長と仕事の成果につながる機会になります。
メンバーが余白を活用する5つの行動
与えられた余白を成果と成長に生かすために、メンバーには「5つの余白」に対応した行動が求められます。
管理職がどのような余白を残し、メンバーがそれをどのように活用するのかを整理すると、次のようになります。
① 意味づける
指示された仕事を、単なる「やるべきこと」として処理するだけでなく、
- 誰にどのような価値を届ける仕事なのか
- 自分にとってどのような意味があるのか
- この経験を通じて何を得たいのか
- 自分は何を大切にしたいのか
- 自分は何を面白いと感じるのか
を、自分の言葉で捉え直します。
管理職から目的や期待を示されたとしても、それをそのまま受け取るだけでは、自分の志向にはなりません。組織がめざす方向と、自分が大切にしたいことを結びつけることで、仕事は「言われたから行うもの」から、「自分なりの意味を持って取り組むもの」へと変わります。
② 問い直す
上司やAIから提示された答えを、そのまま正解として受け取らず、
- その前提は正しいか
- ほかの見方はないか
- 自社や顧客の状況に当てはまるか
- 自分は本当に納得しているか
- 見落としているリスクはないか
を考えます。
上司やAIの答えを活用すること自体が問題なのではありません。重要なのは、答えを受け取って思考を終えるのではなく、自分の問いを重ね、よりよい考えへと深めることです。
AI共存時代に重要なのは、AIを使わないことではなく、AIの答えに対して、自分の問いを持つことです。
③ 選び取る
選択肢を並べるだけでなく、自分なりの判断基準を持ち、
- 何を優先するか
- 何を見送るか
- どのリスクを引き受けるか
- 誰の意見を確認するか
- なぜその選択をするのか
を決めます。
判断とは、正解を当てることだけではありません。限られた情報や時間のなかで、何を基準に選び、その理由を説明できるかが重要です。
管理職が判断を委ねても、メンバーが「上司が決めてください」と返し続ければ、判断経験は蓄積されません。自分で選び、その結果を引き受ける経験が、次の判断力につながります。
④ 行動し、確かめる
考えたことを現実の仕事で試し、顧客や関係者、成果から反応を得ます。
AIとの壁打ちやシミュレーションだけでは得られないのが、現実の相手との間に生じる、
- 予想外の反応
- 利害の対立
- 感情の動き
- 実行上のリスク・制約
- 成果への責任
です。
実際に行動することで、初めて想定と現実の違いが見えてきます。最初から大きな挑戦をする必要はありません。失敗しても立て直せる範囲で小さく試し、その結果を見ながら次の行動を考えます。
試行を通じて、自分の思考や判断が現実に耐えられるかを確かめることが重要です。
⑤ 学び直す
結果が良かったか、悪かったかだけで終わらせず、
- 何を狙っていたか
- どのように考え、判断したか
- 何が想定と違ったか
- どの場面で感情が動いたか
- 何がうまくいったか
- 次は何を続け、何を変えるか
を振り返ります。
結果だけを見れば、成功か失敗かで終わってしまいます。しかし、判断までの過程や感情の動き、周囲から得たフィードバックを振り返ることで、経験は次の仕事でも生かせる学びへと変わります。
この内省によって、経験が次の志向、思考、判断、試行へとつながります。
「意味づける」「問い直す」「選び取る」「行動し、確かめる」「学び直す」という5つの行動は、一度行えば終わるものではありません。学び直した内容をもとに、次の仕事の意味を捉え直し、再び問い、選び、試していくことで、余白活用力は高まっていきます。
そして、必要に応じて考える時間や判断範囲、周囲からの支援を自ら確保・調整できるようになることで、メンバーはこの成長の循環を、より主体的に回せるようになります。
企業・人事に求められる役割
余白設計力を、管理職本人の意識やスキルだけに委ねていては、職場への定着や継続的な実践にはつながりにくくなります。
管理職自身に判断する権限がなく、メンバーと向き合う時間もなく、失敗が許容されない環境であれば、メンバーに成長につながる余白を設計することはできません。
企業・人事には、管理職が余白設計力を発揮し、メンバーが余白活用力を高められる環境を整える役割があります。
そのために企業・人事が整えたいことは、役割・権限の明確化、管理職の時間確保、職場実践を軸とした育成設計、育成行動の評価、管理職への伴走支援の5つです。これらを個別の施策としてではなく、互いに連動する仕組みとして整えることが重要です。
① 役割・権限を明確にする
- 課長が決めてよい事項
- 部長へ相談する事項
- メンバーへ委ねてよい事項
- 法務、安全、顧客リスクなどの観点から委ねられない事項
を明確にします。
また、余白設計力は、課長だけの能力ではありません。部長・課長・メンバーという階層間の連鎖として設計するテーマであり、各階層の管理職が、それぞれの役割に応じた行動をとることが大切です。
② 管理職の時間を確保する
AIや業務改善によって生まれた時間を、新たな作業で埋めるのではなく、
- メンバーの観察
- 対話、フィードバック
- 経験機会の付与
- 振り返り
- 他部門との関係構築
に振り向けます。
管理職に余白設計力を求める前に、企業が管理職自身に余白を与える必要があります。
③ 職場実践を育成の中心に置く
知識を教える研修だけでは、余白設計力を十分に高めることはできません。
- 実際に任せる仕事を決める
- 本人と、任せる範囲や相談条件を合意する
- 一定期間、職場で実践する
- 上司や同僚と振り返る
- 次の実践テーマを設定する
ところまでを、管理職が現場で実践できるようにする仕組みや仕掛けを、育成プログラムに組み込むことが求められます。
④ 育成行動を評価する
短期業績だけを評価すれば、管理職が自ら答えを出し、失敗を避けるほうが合理的になります。
- メンバーへ判断を任せたか
- 後継者が育っているか
- チームの自律的な判断が増えたか
- 経験から学ぶ習慣が根づいているか
- 挑戦や改善が生まれているか
についても評価や対話の対象とし、短期業績だけに偏らない組織風土や文化をつくることが必要です。
⑤ 管理職への伴走支援を整える
余白設計には、迷いが伴います。
- どこまで任せるか
- いつ介入するか
- 失敗をどのように受け止めるか
- 本人の成長と仕事の成果をどのように両立するか
などを、上司、社内メンター、同僚管理職、外部支援者などに相談しながら取り組める体制を整えることが求められます。
管理職の余白設計力と、メンバーの余白活用力は、個人の努力だけで定着するものではありません。これらの取り組みを一体として整えることで、余白を通じた成長が職場の日常になっていきます。
「何を問い、何を判断し、どう人を動かすか」を体得する『マネジメント・ダイアローグ研修』管理職が「部下と組織の成長」を目的に、心理的安全性を高めながら対話(ダイアローグ)の手法を体得する1日間のプログラムです。
余白設計に必要な、「問いを立てる」「相手の話を聴く」「前提や感情を確認する」「判断の背景を言語化する」「納得感を持って行動につなげる」といった関わりを、実践的に学びます。
余白を組織の成長力へ変える3層構造
ここまで見てきたように、余白を通じて成果と成長を生み出すには、企業・人事、管理職、メンバーの三者が、それぞれの役割を果たす必要があります。
ただし、余白は管理職が一方的に与えるものではありません。管理職とメンバーが対話を通じて、
- 何を任せるのか
- 何を期待するのか
- どこまで本人が判断するのか
- どのような場合に相談するのか
- いつ、どのように振り返るのか
を合意し、相手の成長や仕事の状況に応じて調整していくものです。
三者の役割が連動すると、管理職の関わり方、メンバーの行動、チームの仕事の進め方にも変化が表れます。
- 管理職が答えを与えるだけでなく、本人の考えを確認し、判断を任せるようになる
- メンバーが自分の案や判断理由を持ち、必要な支援を求め、経験を次の行動へつなげるようになる
- チームでは自律的な意思決定や改善提案が増え、確認や手戻りが減り、経験から学び合う習慣が生まれる
企業・人事が成長環境を整え、管理職が余白を設計し、メンバーがその余白を活用する。この三者の連動によって、余白は個人の成長機会にとどまらず、職場の日常の行動を変え、組織の成長力へとつながっていきます。
AI時代に管理職が手放すもの、手放してはいけないもの
AI共存時代に管理職へ求められるのは、AIよりも早く答えを出すことではありません。
むしろ、相手と仕事の状態を見極め、本人が何を目指すかを意味づけ、考え、判断し、経験から学ぶ余地を意図的に残す「余白設計力」が求められていきます。
また、余白は放任・丸投げではありません。
成果基準や任せる範囲、相談条件を明確にし、必要な支援を置きながら、本人が自ら判断し、行動できるようにする、支援と明確な境界を伴う裁量です。
管理職に必要なのは、余白設計力。
メンバーに必要なのは、余白活用力。
企業・人事に必要なのは、両者が機能する成長環境の設計・構築です。
AIが答えを示す時代だからこそ、人が問い、考え、選び、行動し、経験から学ぶ機会を残す。その積み重ねによって、管理職が一方的に教え、メンバーが教わるだけの関係から、対話と経験を通じて、ともに学び、育つ関係へと変わっていきます。
管理職が手放したいのは、すべての答えを自分で示すこと。
手放してはいけないのは、成果と成長に向き合う責任です。
相手と仕事に応じて余白を適切に設計し、それを主体的に活用できる職場をつくることは、未来の成果と人を育てるための、組織の大切な投資になっていくといえます。
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