コラム
  • 対象: 全社向け
  • テーマ: 働き方
  • 更新日:

ケアハラスメントとは?具体的な事例と企業の対策手順

ケアハラスメントとは?具体的な事例と企業の対策手順

「介護休業を取りたいと伝えたら、上司に嫌な顔をされた」「介護の現場で利用者から暴言を受けたが、誰にも相談できなかった」。こうした経験に心当たりがある方は少なくないのではないでしょうか。ケアハラスメントは、介護に関わるすべての人に起こりうる問題であり、企業として見過ごせないテーマになっています。

こうした状況を放置すると、従業員の離職やメンタル不調の増加につながり、結果として組織全体の生産性や信頼性にも影響が及びかねません。ケアハラスメントの実態を正しく理解し、適切な対応を講じていくことが必要とされています。

この記事でわかること

  • ケアハラスメントの定義と2つのタイプの違い
  • 職場や介護現場で実際に起きている具体的な事例
  • ケアハラスメントが発生する背景と企業が抱えるリスク
  • 今日から取り組める5つの対策手順と相談窓口の活用法

関連資料

コンプライアンス・情報セキュリティ・ハラスメント対策パック

関連資料

企業の基盤を支える"必須教育"を一気に導入できる法人向けeラーニング

ケアハラスメントの意味と2つのタイプを押さえよう

ケアハラスメントという言葉は、実は2つの異なる場面で使われています。ここではそれぞれの違いを整理し、正しく理解するための土台を作ります。

ケアハラスメントが指す2つの問題

ケアハラスメントには大きく分けて2つのタイプがあります。1つ目は、職場における介護休業・制度利用に関するハラスメントです。介護休業や時短勤務といった制度利用を妨げたり、利用したことで不当な扱いをしたりする行為がこれに当たります。

2つ目は、介護サービスの現場における利用者や家族からの不当な行為です。この2つは行為者も発生場所も異なるため、対策もそれぞれ分けて考える必要があるでしょう。

法律ではどのように位置づけられているか

育児・介護休業法第25条では、労働者が介護休業等の申出や取得をしたことを理由とする、事業主による不利益な取り扱いの禁止が定められています。また、厚生労働省の指針においても、上司や同僚が制度利用を阻害したり、取得による嫌がらせを行ったりしないよう、事業主に対して必要な措置を講じることを求めています。

さらに2022年4月からは、中小企業を含むすべての企業に対し、労働施策総合推進法(パワハラ防止法)に基づく「パワーハラスメント防止措置」が義務化されました。ケアハラスメントに該当する行為の多くは、このパワハラや制度利用に関するハラスメント防止措置の対象となるため、企業にとって法的に遵守すべき取り組みといえます。

タイプ 被害を受ける人 行為者 関連法令
職場型 介護中の従業員 上司・同僚 育児・介護休業法
介護現場型 介護職員 利用者・家族 労働施策総合推進法(パワハラ防止法)ほか

ケアハラスメントの具体的な事例を知る

「どこからがハラスメントなのかわからない」という声は人事担当者からもよく聞かれます。ここでは職場と介護現場それぞれの典型的な事例を紹介します。

職場で起きるケアハラスメントの事例

代表的なのは、介護休業の取得を申し出た従業員に対して「残業しなくていいなんてうらやましい」「周りはいい迷惑だ」と繰り返し言われるケースです。一見すると愚痴のようにも聞こえますが、制度利用をためらわせる発言はケアハラスメントに該当します。

さらに深刻な例としては、介護休業から復帰した社員が雑務ばかり割り当てられたり、本人の同意なく部署異動させられたりするケースがあります。契約社員が制度を利用したことを理由に雇い止めに遭った事例も報告されており、生活に直結する被害に発展することもあるのです。

介護現場で起きるケアハラスメントの事例

介護施設や訪問介護の現場では、利用者から叩かれる、つねられる、物を投げつけられるといった身体的な暴力が報告されています。ケガがなくても、身体への攻撃があればハラスメントに該当する点は押さえておきたいポイントです。

精神的な暴力としては、「バカ」「給料泥棒」といった暴言や、利用者の家族が事実確認もせず「うちの親をいじめた」と一方的に責めるケースもあります。契約外のサービスをしつこく要求する行為も、正当なクレームの範囲を超えたハラスメントです。

介護現場におけるハラスメント対策マニュアルが示す事例から学べること

厚生労働省の「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル 」(受託・作成:三菱総合研究所)では、以前利用していた別の事業所で家族から職員への暴言があったという情報共有が不足していたために、新たな事業所で同様の問題が再発したケースが取り上げられています。

この事例は、利用者や家族に関する情報を事業所間でしっかり引き継ぎ、担当職員の配置や申し送りに反映させることの大切さを教えてくれるでしょう。情報の空白がハラスメントの温床になり得るのです。

  • 身体的暴力の例 … 叩く、蹴る、つねる、唾を吐く、物を投げつける
  • 精神的暴力の例 … 大声で怒鳴る、暴言を浴びせる、土下座を強要する
  • セクハラの例 … 不必要に体に触れる、性的な発言を繰り返す

ケアハラスメントが起きる背景と企業が抱えるリスク

対策を考えるうえでは、なぜケアハラスメントが起きるのかという構造的な原因を理解することが欠かせません。背景を知ることで、より効果のある予防策を打てるようになります。

職場でケアハラスメントが生まれる原因

大きな原因のひとつが、コミュニケーション不足です。介護制度を利用する従業員の事情が周囲に伝わっていないと、「サボっているのではないか」という誤解が生まれやすくなります。日ごろから情報共有が足りない職場ほど、ハラスメントが発生しやすい傾向があります。

もうひとつは業務負担の偏りです。一人が休みを取ると、残ったメンバーの仕事量が増えてストレスが高まり、制度を使った人への不満がハラスメントにつながってしまうことがあります。管理職が負担調整をしないまま放置すると、問題はさらに広がっていくでしょう。

介護現場でハラスメントが発生しやすい構造

介護を受ける高齢者は、身体機能の低下により、思い通りに動けないストレスを抱えています。その苛立ちが介護職員へ向けられてしまうケースは少なくありません。加えて、家族が「お金を払っているのだから何でもやってもらえるはず」という過度な期待を持つことも、ハラスメント発生の背景になっています。

特に在宅介護では、職員と利用者が一対一の「密室」状態になりやすく、施設のように複数の目がありません。こうした環境の特性が、ハラスメントを見えにくくし、エスカレートさせる要因になっています。

企業が放置した場合に生じるリスク

ケアハラスメントを放置すると、「介護は家庭の問題」といった空気が職場に広がり、介護を担う従業員が孤立しやすくなります。不当な評価や制度利用への圧力がある職場では、会社への信頼が損なわれ、安心して働き続けることが難しくなるでしょう。

その結果、仕事と介護の両立に不安を抱える従業員は、業務への意欲や会社への愛着、いわゆるエンゲージメントを低下させる可能性があります。こうした状態が続けば、本人のパフォーマンス低下だけでなく、周囲にも「この会社では介護と仕事を両立できないのではないか」という不安が広がりかねません。

さらに、ケアハラスメントによるストレスや両立困難が深刻化すると、優秀な人材の離職につながるおそれもあります。採用難が続くなかで、一度失った人材を補うことは容易ではありません。加えて、企業が必要な配慮を怠った場合には、安全配慮義務の観点から法的リスクを問われるケースも考えられます。ケアハラスメントの放置は、従業員の働きやすさだけでなく、組織全体の人材定着や信頼にも影響する問題です。

リスクの種類 具体的な影響
人材流出 経験ある従業員の離職が加速し、採用コストが増大する
法的リスク 安全配慮義務違反や行政指導の対象となりうる
組織風土の悪化 ハラスメントが常態化し、職場全体の士気が低下する
サービス品質の低下 職員の心理的余裕がなくなり、介護の質に影響する

企業が今すぐ始められるケアハラスメント対策5つの手順

ケアハラスメント対策は、特別な予算やツールがなくても始められるものばかりです。ここでは実務の流れに沿って、5つのステップで対策手順を解説します。

手順1 方針を決めて全社に伝える

最初のステップは、「ケアハラスメントを含むあらゆるハラスメントを許さない」という組織としての方針を明確に打ち出すことです。経営層のメッセージとして発信し、採用時の説明や社内研修でも繰り返し伝えることで、組織全体の意識を揃えていきましょう。

方針は掲示するだけでは不十分です。朝礼や社内報、イントラネットなど複数のチャネルで発信し、管理職による部下の直接的な説明が、浸透のカギになります。

手順2 就業規則とマニュアルを整備する

次に、就業規則に禁止行為の類型と懲戒処分の基準を明記しましょう。「どこからがハラスメントか」が曖昧なままでは、管理職も判断に迷い、問題を見過ごしやすくなります。あわせて対応マニュアルを作成し、発生時の報告先や対応フローを全従業員に共有しておくと安心です。

マニュアルには「こんな場面はハラスメントに当たる」という具体例を盛り込むと、現場での理解が格段に深まります。厚生労働省が公開している事例集も活用できるでしょう。

手順3 定期的な研修を実施する

知識を伝えるだけでなく、ロールプレイングや事例討議を取り入れた体験型の研修が効果的です。ハラスメント場面を疑似体験することで、「自分ならどう対応するか」を考える力が身につきます。

研修は年に1回の実施で終わりにせず、新入社員研修や管理職研修など複数の機会に組み込むと、組織の文化として定着しやすくなります。外部講師を招くのも、社内だけでは得にくい気づきを得る有効な方法です。

手順4 相談窓口を設置して運用する

相談しやすい窓口があるかどうかは、問題の早期発見に直結します。社内の窓口に加えて、外部の第三者機関と連携した窓口を設けると、「社内の人には言いにくい」という従業員も安心して利用できるようになります。

窓口の存在を周知するだけでなく、「相談したことを理由に不利益な扱いをしない」ことも明示してください。この保証がなければ、窓口をつくっても利用されないままになってしまいます。

1.社内相談窓口の設置と担当者の選任
2.外部相談窓口(社外カウンセラー等)との連携
3.相談があった場合の事実確認フローの策定
4.被害者保護と行為者への処分基準の明確化
5.再発防止策の検討と全社へのフィードバック

手順5 業務体制を見直して根本原因を取り除く

ハラスメントの背景には、人員不足や業務の偏りといった構造的な問題が潜んでいることが多いものです。介護制度を利用する従業員が出た際にチーム全体で業務を分担できる仕組みがあれば、「あの人のせいで仕事が増えた」という不満が生まれにくくなります。

業務の棚卸しを行い、属人的になっている作業を標準化することも有効な一手です。誰かが休んでも回る組織をつくることが、ケアハラスメントの根本的な予防につながるでしょう。

困ったときに頼れる公的な相談窓口

自社内だけで問題を抱え込む必要はありません。無料で利用できる公的な相談窓口を知っておくことで、いざというときの選択肢が広がります。

総合労働相談コーナーの活用

各都道府県の労働局や労働基準監督署には総合労働相談コーナーが設置されています。ハラスメントを含む労働問題全般について、労働者・事業主のどちらからでも無料で相談が可能です。面談だけでなく電話での相談にも対応しています。

相談の際は、いつ・どこで・誰から・どのようなことをされたかを事前にメモしておくとスムーズに進みます。記録を残しておくことが、事実確認の第一歩です。

法テラスや人権相談ダイヤルも選択肢に

法テラス(日本司法支援センター)では、問題に応じて弁護士会や司法書士会などの適切な相談先を無料で案内してもらえます。「法的にどう対処すればいいかわからない」という段階でも気軽に利用できるのが特長です。

また「みんなの人権110番」は、ハラスメントを含む人権問題全般を受け付ける電話窓口で、最寄りの法務局につながります。メンタルヘルスの面では、厚生労働省のポータルサイト「こころの耳」で医療機関や相談窓口の情報を探すことも可能です。

相談窓口 相談できる内容 費用
総合労働相談コーナー ハラスメント・労働条件全般 無料
法テラス 法的な対処法の案内 無料
みんなの人権110番 差別・虐待・ハラスメント 無料
こころの耳 メンタルヘルス全般 無料

JMAMの「ハラスメント対策・コンプライアンス教育」を支援する人材育成プログラム

ケアハラスメントは、育児・介護と仕事の両立に対する理解不足や配慮の欠如から生まれやすく、放置すれば離職や組織不信といった深刻なリスクにつながります。制度整備だけでなく、「現場で正しく判断・行動できるか」が問われている今、教育の質が重要になっています。

現場で起こる“グレーなハラスメント”に対応するには

ケアハラスメントは、明確な悪意がないケースも多く、「業務上やむを得ない指示」との線引きが曖昧になりがちです。そのため、管理職や従業員一人ひとりが具体的な事例をもとに判断基準を理解し、適切に対応できる状態をつくることが不可欠です。 日本能率協会マネジメントセンター(JMAM)の「コンプライアンス・情報セキュリティ・ハラスメント対策パック」では、ハラスメント・コンプライアンス・情報セキュリティといった企業リスクに直結する領域を網羅し、実務に即したケーススタディを通じて“自分ごと化”を促進。現場で迷わない判断力の定着を支援します。

教育の「形骸化」を防ぎ、組織全体に浸透させる仕組み

ルールを整備しても、現場で実践されなければ意味がありません。特にハラスメントのような繊細なテーマは、継続的な教育と理解のアップデートが欠かせない領域です。本プログラムは、複数の重要テーマを一括で学べる設計となっており、企業全体で統一した教育を実現。学習の進捗や理解度を可視化できるため、属人的な運用に頼らず、組織としてのリスク対策を強化できます。コンプライアンス教育を体系的に整備し、現場にしっかりと根付かせたい企業に適したサービスです。

よくある質問

Q: ケアハラスメントとパワハラの違いは何ですか?

パワハラは職場での優位な立場を利用した嫌がらせ全般を指すのに対し、ケアハラスメントは「介護」に関連する制度利用への妨害や、介護現場での利用者・家族からの迷惑行為に焦点を当てた概念です。ケアハラスメントがパワハラの一形態として扱われるケースもあり、明確に分離されるものではありません。

Q: 認知症の利用者による暴力もケアハラスメントに含まれますか?

厚生労働省のマニュアルでは、認知症などの病気や障害の症状として表れた言動(BPSD等)はハラスメントとは区別して対応すべきとされています。ただし、職員の安全を守る必要があることに変わりはなく、症状に応じた個別の対策を事業所として講じることが求められています。

Q: 中小企業でもケアハラスメント対策は義務ですか?

はい、義務です。2022年4月以降は企業の規模にかかわらず、すべての事業主にパワハラ防止措置が義務化されています。また、育児・介護休業法に基づく介護関連ハラスメントの防止措置も全事業主が対象です。規模が小さくても、方針の周知や相談窓口の設置といった基本的な取り組みが必要になります。

ケアハラスメント対策は「知る」ことから始まる

ケアハラスメントには、介護中の従業員が職場で受けるタイプと、介護職員が利用者・家族から受けるタイプの2種類があります。どちらも法律で対策が義務づけられており、放置すれば人材流出や法的リスクにつながりかねません。まずは方針の策定と周知、就業規則の整備、研修の実施、相談窓口の設置、そして業務体制の見直しという5つの手順で、まずは着手可能な項目から対策を講じましょう。

特に人事・育成の担当者にとっては、管理職を巻き込んだ継続的な教育が成功のカギを握ります。一人ひとりが「何がハラスメントに当たるのか」を正しく理解し、困ったときに声をあげられる風土をつくることが、長期的な人材定着と組織の成長につながっていくでしょう。

  • ケアハラスメントは「職場型」と「介護現場型」の2つがあり、それぞれ対策が異なる
  • 制度利用への嫌がらせや暴言・暴力は法律上のハラスメントに該当する
  • 方針策定・規則整備・研修・相談窓口・体制見直しの5ステップで対策を進めよう
  • 公的相談窓口や通信教育を活用し、組織全体の知識と意識を底上げしよう

解説資料|コンプライアンス・情報セキュリティ・ハラスメント対策パック

企業の基盤を支える"必須教育"を一気に導入できる法人向けeラーニング

コンプラ、法務、情報セキュリティ、ハラスメントなど重要5領域・25コースで、企業リスクに直結する教育をすべて網羅した教育パッケージです。

  • 実際に起きた重大事例
  • 全社啓発教育をしても不祥事が起こる背景
  • 啓発教育が機能しない原因
コンプライアンス・情報セキュリティ・ハラスメント対策パック
JMAM HRM事業 編集部

文責:JMAM HRM事業 編集部
人事・人材教育に関する情報はもちろん、すべてのビジネスパーソンに向けたお役立ちコラムを発信しています。

関連商品・サービス

あわせて読みたい

Learning Design Members
会員限定コンテンツ

人事のプロになりたい方必見「Learning Design Members」

多様化・複雑化の一途をたどる人材育成や組織開発領域。
情報・交流・相談の「場」を通じて、未来の在り方をともに考え、課題を解決していきたいとの思いから2018年に発足しました。
専門誌『Learning Design』や、会員限定セミナーなど実践に役立つ各種サービスをご提供しています。

  • 人材開発専門誌『Learning Design』の最新号からバックナンバーまで読み放題!
  • 会員限定セミナー&会員交流会を開催!
  • 調査報告書のダウンロード
  • 記事会員制度開始!登録3分ですぐに記事が閲覧できます