株式会社みずほフィナンシャルグループ
新しい人事の枠組み〈かなで〉に沿って再構築したスキルアップ研修において、JMAMの〈みずほ〉への理解、寄り添い方は他を凌駕しています。

2003年に誕生した株式会社みずほフィナンシャルグループは、銀行、証券、信託、シンクタンクが一体となって、法人・個人を問わず、お客様の一番身近な金融機関として歩んできました。2023年にはパーバス 「ともに挑む。ともに実る。」を定めるとともに、主要5社共通の新人事制度に移行しました。移行と併せて教育研修制度の見直しも実施し、「スキルアップ研修」に日本能率協会マネジメントセンター(JMAM)より複数の研修を導入し、実施しています。同社の新人事制度移行と、スキルアップ研修の構築について、人材・組織開発部 キャリアデザイン室 ヴァイスプレジデント 渕野名美様、同 阿部大介様にお話を伺いました。
- 人材・組織開発部 キャリアデザイン室 ヴァイスプレジデント
- 阿部 大介 様
- 人材・組織開発部 キャリアデザイン室 ヴァイスプレジデント
- 渕野 名美 様

- 会社名
- 株式会社みずほフィナンシャルグループ
- URL
- https://www.mizuho-fg.co.jp/index.html
- プロフィール
設立 2003年(平成15年)1月8日 本社所在地 東京都千代田区大手町1丁目5番5号(大手町タワー) 事業分野 銀行持株会社として、銀行持株会社、銀行、証券専門会社、その他銀行法により子会社とすることができる会社の経営管理およびこれに附帯する業務
「ともに挑む。ともに実る。」
──株式会社みずほフィナンシャルグループについて教えてください。
みずほフィナンシャルグループは2003年に誕生し、銀行、証券、信託、シンクタンクが一体となって、法人・個人を問わず、お客様の一番身近な金融機関として歩んできました。グループの主な会社は当社、みずほ銀行、みずほ信託銀行、みずほ証券、みずほリサーチ&テクノロジーズです。

みずほフィナンシャルグループ Webサイト
誕生から20年が経った2023年に、〈みずほ〉が果たすべき役割・〈みずほ〉の存在意義、としてパーパス「ともに挑む。ともに実る。」を定めました。変化の時代において挑戦を支える、そして自らも果敢に挑戦していく、という思いを込めています。
そして社員一人ひとりの自律的なキャリア形成を支える仕組みとして、人事制度の全面的な刷新も行いました。多様な人材が働ける環境を整備し、女性の活躍をより後押しするとともに、アルムナイネットワーク等も拡充し、多種多様な人材が集結し、互いに高め合う場の魅力を一層磨き上げていきます。
〈かなで〉と名付けられた新しい人事の枠組みには、これからの〈みずほ〉を社員と会社が「ともに創り、ともに奏でる」という思いが込められています。

みずほフィナンシャルグループ 2023年統合報告書より
主要5社共通となる人事の枠組みに移行
──〈かなで〉について教えてください。
グループ誕生から丸20年の間、人事制度の細かな変更はありましたが、抜本的な変更は今回が初めてです。
その背景には社会の大きな変化があります。今までは比較的予測しやすい時代でしたので、課題を解決する能力が必要と言われてきました。しかし、現在は正解がない社会に突入しています。その中で、課題を解決する能力に加えて自ら課題を発見する能力も求められますし、多様な人材がこれまで以上に必要となってきます。
社会の変化にともない、従業員の価値観も変化しています。1社で定年まで働くことはスタンダードではなくなり、転職や兼業・副業といった選択肢も増えています。一人ひとりが働きやすい環境とは何か、会社に求められる人材になるためにはどうすればいいのかを、会社側も従業員側も考える必要があります。
そのために、新たな人事の枠組みである〈かなで〉に移行しました。
〈かなで〉の特徴は、主要5社共通の枠組みであることです。まだ思考錯誤を繰り返している面もありますが、グループ内で所属する会社が変わっても、評価制度、賃金体系などは変わりません。
以前は賃金体系が異なる状況が転籍のハードルになることもありましたが、このハードルがグッと下がりました。また、転籍、出向という概念も徐々になくなり、会社を跨いだ異動という感じになっています。
私たちセントラル人事は、みずほフィナンシャルグループ全体、あるいは主要5社共通の人事、教育などの取り組みを担っています。一方で、戦略や人材育成方針を基に、現場ごとに配置や登用を考えながらビジネスをリードしているのがカンパニー人事です。
その土台として社員ナラティブがあります。会社が社員にキャリアを一方的に押しつけるのではなく、社員1人ひとりが自分らしさを起点にキャリアストーリーを作り上げていき、会社は社員の潜在能力を最大限に引き上げていくことで、結果として会社の成果に繋がっていきます。
会社と社員が対等な関係として相互作用し、個人のキャリア自律と組織の成長を同時に促していくことが〈かなで〉の世界観であり、パーパスに定めた「ともに挑む。ともに実る。」へと繋がります。

人材・組織開発部 キャリアデザイン室 ヴァイスプレジデント 渕野 名美 様
教育研修制度を見直しスキルアップ研修を再構築
──2024年度から新たに構築されたスキルアップ研修の中に、日本能率協会マネジメントセンター(以下、JMAM)の研修を複数導入されました。導入の経緯を教えてください。
〈かなで〉への移行にあたり、法人の壁を越えた機動的な⼈材配置・ビジネスをリードする⼈材育成の実現を考え、教育研修制度の見直しを行いました。
まず、5社共通で受ける初期研修として入社1~2年目の社員向けの必須研修があります。その次に共通で受講する研修は、新任マネジメント研修となります。こちらは入社13年~15年くらいの社員、年齢で言うと30代半ばの社員が中心に受講します。初期研修終了後~新任マネジメント研修受講までの約10年間には、各社で専門性を高めるための研修は実施されますし、自己啓発に取り組む機会も提供されます。
ただ、5社共通で必要となる「社会人として求められる基礎的なスキル」を補う機会は本人任せのところがあり、全体の底上げという意味では、セーフティネットとしての施策が必要でした。
いくら専門性を尖らせても、「社会人として求められる基礎的なスキル」がない社員は期待通りのパフォーマンスができない場面もあります。
パソコンに例えると、いくら最新のアプリ(専門性)を入れてもOS(基礎スキル)が最新でしっかりしていないと、うまく動作しないのと同様です。部門や年次、役割に関わらず絶対に必要なことを身につけて欲しいというカンパニー人事の考えをスキルアップ研修へ取り入れました。
また、社員自身が目指すキャリアや必要な能力を自ら勝ち取っていく、もしくは補完していく機会としてもスキルアップ研修を機能させていこうと考えています。ですので、研修への参加は基本的に手上げですし、“この研修はこの年次”といったようなしばりを設けずに、受講する社員の意向を尊重しています。

人材・組織開発部 キャリアデザイン室 ヴァイスプレジデント 阿部 大介 様
縦軸に行動力評価の能力、横軸に役割を敷いて23の研修テーマを抽出
──スキルアップ研修は以前からもあったそうですが、まったく違う研修なのですか。
汎用的スキルを扱うという点では同じですが、講座設定のアプローチが大きく変化しました。
〈みずほ〉では、社員自身の行動・成果の振り返りを促し、社員の成長と〈みずほ〉の発展を実現することを目的として、全社員を対象に「成果評価」「行動力評価」を実施しています。
「行動力評価」では10項目が評価項目として定義されており、今回のスキルアップ研修はそれらに紐づいた内容の研修としました。逆にいうと、紐づかないものは用意しません。
──スキルアップ研修のテーマ、研修内容はどのように決めたのですか。
実施する研修は、「行動力評価」の10項目のいずれかに必ず紐づけ(関連づけ)ています。これにより、評価項目を拠り所として学べるテーマを分かりやすく整理しています。これが、今回のスキルアップ研修改定の大きなポイントであり、その一部をJMAMに支援してもらっています。足りない部分を補う、強みを伸ばす等、受講者本人の目的次第で自由に研修を選べるようにしています。
さらに、社員一人ひとりが任されている役割の定義も紐付け、縦軸に行動力評価の項目、横に影響範囲(個人完結~所属課・チームレベル)を敷いて、クロスするところに合致するテーマを、研修テーマとして用意しました。当初ピックアップしたときには60~70テーマありましたが、主要5社のカンパニー人事でチェックしたうえで、セントラル人事内で相談して2024年度は23のテーマを決めました。
〈みずほ〉に対する理解、寄り添い方で他を凌駕
──JMAMに研修を依頼したきっかけを教えてください。
阿部が前職時代にお付き合いがあり、今回のスキルアップ研修の見直しに際して相談したのがきっかけです。相談した理由は、JMAMは研修を依頼する会社のことを理解してくれ、研修をやろうとしている意図は何か、その背景に何があるのかをきちんと理解してくれる会社だと考えていたからです。
今回でいえば、人事の枠組みが変わったタイミングでもあり、なぜ主要5社共通でこのスキルアップ研修を実施するのか、といった背景・意図をすごく理解してくれたと感じています。
もちろん、JMAM以外の研修会社もすべて同様の理解をしている会社です。
──JMAMに複数の研修を依頼した理由を教えてください。
例えば研修プログラム単体を見た場合、選に漏れた会社の中にはJMAMよりも優れた研修プログラムもあったと思います。しかし、〈みずほ〉に対する理解、〈みずほ〉に対する寄り添い方は、対話を重ねるほどに研修プログラムは改善されていくだろうという大きな期待感を持たせてくれました。
そして今回の研修依頼先は、私たちだけで決めたものではありません。5社のセントラル人事が揃った席でコンペティションを行い、参加者全員で見極めました。自社のビジネスに関連した研修テーマによっては5社で判断が分かれるケースもありましたが、JMAMに今年度依頼している研修テーマに関しては5社で考えが分かれることなく、満場一致で決まりました。
現場活用度と推奨度で研修を評価
──現在も2024年度のスキルアップ研修が進行中かと思います。参加者の評価はいかがですか。
研修後に実施するアンケート結果については、概ね好評という感触です。
私たちが評価しているポイントは、「今回学んだ内容は現場で活用できると感じましたか?」という質問です。この質問の評価が高いか低いかを一番重視しています。5段階評価で平均してJMAMは大体4.4~4.6となっています。研修日によって低いときもありますが、それでも4.2を切ることはない印象です。
研修の場合、もちろん講師の能力もありますが、私たちは受講者の講師に対する満足度はそれほど重要視していません。「これは現場で使える」、「これを使えば明日からの業務が少し楽になるかもしれない」、「業務の幅が広がるかもしれない」、というきっかけを持ち帰って欲しいのです。そのきっかけを得られたか、現場で活用できたかどうかを重視しています。
また、研修への満足度が高く、研修を通じて成長実感を持った受講者が居た場合、恐らくその社員は研修を周囲の人に推薦するでしょう。その「他者推奨度」を2番目に重視しています。
──アンケートでは、現場活用度と他者推奨度に着目されるのですね。
そうですね。アンケートは研修の1ヶ月後にも取っています。研修直後と違い、1ヶ月後のアンケートには回答の強制力がありません。そこでどれだけ回答してくれるかも重視しています。なぜなら、受講者本人が手応えを感じなかった研修なら回答してもらえないからです。
現在の研修1か月後アンケートの回答率は6~7割ですが、それを1割でも増やしていきたいですね。安定的に8割は回答してもらえるような研修を提供しなければなりません。そこを目指して研修の設計を行い、仕掛けをしていきたいと考えています。
1ヶ月後のアンケート回答者のうち、研修で得たものを使っている割合は約7割、忙しくて使えていない、その能力を発揮する場がないとの回答は約3割となっています。
研修に登壇する講師から受講生に対して、「スキルを発揮する場面を自分で作ることも、そのスキルを学習するプロセスの一つ」と伝えてもらいます。学んで終わりではなく、学んだことを実践し、それが周囲の人に影響を与え、自分と仲間が共に成長していくのが〈かなで〉の世界観であることを講師が理解し、研修時にも訴求してくれることが重要です。
そのためには、研修会社の担当者が、どれだけ〈みずほ〉や〈かなで〉を理解し寄り添ってくれるかが重要です。そのマインドの有無がお任せするしないを峻別するポイントと考えています。
期待以上のことをしてくれている
──受講された社員の変化についてはいかがですか。
外部の講師が〈かなで〉について語ってくれるほうが、社内の人が語るよりも“刺さる”と感じる社員も多いようです。受講する社員の中には、「個人のスキルが高いだけではどうにもならない」、「周りの人を巻き込んでチームとして共に良くなっていく必要がある」といったことに気づき始めている人もいると感じています。このような社員は、〈かなで〉の世界観を理解してくれているのではないかと思います。
約5万人のグループ社員のうち、2024年度の受講者数は約4,000名前後の見込みです。今は、〈かなで〉の世界観を持って学びや実践に挑戦する必要があると気付き始めた人が行動に移している「過渡期」のステージだと捉えています。
──まだ研修は続いていきますが、JMAMが果たした役割について評価をお願いします。
期待以上のことをしてくれています。〈かなで〉に対する理解や〈みずほ〉に寄り添う姿勢に関しては、これぐらいやってくれたら嬉しいと我々が感じている期待以上のことをしてくれていると思います。
スキルアップ研修の可視化を行いたい
──今後のスキルアップ研修についてはどのようにお考えですか。
来年度これをやろうね、とJMAMと対話をしているのがLearning Journey(ラーニングジャーニー)です。ある研修と別の研修がどう繋がっていて、どのようなステップを踏むことでどのような役割や能力に到達するのかを可視化したい、と考えています。
受講者からは「どういう順番で何を受講すればいいのか」、「ここまで到達したいけれど道筋がわからない」というご相談がきます。それをある程度可視化することで、受講するテーマを選ぶ際の一つのヒントとして受講者へ示したいと考えています。
今回、ある程度のラインナップが揃いました。来年度はそれらをどう見せていくかというフェーズに入ると思います。
私たちの研修は、全社員を対象に機会は均等に提供しています。
現状ではすぐには使わないけれども、将来的にそういったポジションを目指していきたい、そのようなキャリアを描きたい方も排除せずに幅広く受け入れていく方針です。そのような社員へのヒントとなるように、Learning Journeyでの可視化を行いたいと考えています。
──JMAMへの期待、リクエストがありましたらお聞かせください。
私たちの研修パートナーとして、引き続きスキルアップ研修を一緒に進めていきたいと考えています。
また社内外のトレンドに関しては、私たちに入ってくる情報はどうしても限定的です。いろいろな企業の研修に携わるJMAMだからこその着眼点や、5年後10年後の金融機関が存続するために、今は必要なくとも将来的に絶対必要だといった観点などからの、幅広い情報提供を今後もお願いしたいと考えています。
取材 2024年12月
本事例でご紹介しているスキルマップ支援および研修について
https://www.jmam.co.jp/hrm/hub/skillmap.html