インタビュー事例

株式会社デンソー 中口 亮兵氏 ディーゼル噴射製造部 生産管理室 生産管理2課 課長
Interview

対話があふれる
職場を創る

株式会社デンソー 中口 亮兵

ディーゼル噴射製造部 生産管理室 生産管理2課 課長

インタビュイーの所属・役職名および以下概要は、インタビュー当時のものです。
(本調査のインタビュー実施期間:2020年12月~2021年2月)
内容は掲載をご許可いただいた範囲で、記事の形式とするため、見出しを追加し、⼀部順序や表現が再構成されています。

脱炭素の流れが加速し、世界各国で排出ガス規制が強化されるなか、ディーゼルエンジンの燃料噴射システムは、環境性能を大きく左右する重要技術として注目を浴びている。この技術をリードするデンソーのディーゼル噴射製造部生産管理室で、関係取引先からの部品調達や納期管理全般を担う課長を務めるのが中口亮兵さんである。

中口さんは、新卒入社し、生産管理の経験を10年間積んだ後、同じ事業を担うタイの海外拠点に赴任。物流の部署も含めて400名をまとめる生産管理部門長を若くして経験した。そのタイでは高収益体質を下支え。

帰国後、本社の組織開発部門を経て、現在に至る。

タイでの経験を糧に、現チームでは、中口さんが環境づくりをしながら、自由闊達な雰囲気でメンバーの力を引き出している。メンバー自身が考えて動く自主性の高い組織運営を推進しつつも、問題が起きれば前面に立って責任を負う姿勢は、部下から厚い信頼を得ている。

シェアド・リーダーシップを重視するようになるまでの経緯

タイへの赴任で突然400人をまとめる立場に
結果重視の強行な指導での失敗から考え方を転換

管理職就任前

管理職になる前は、どのようなリーダーになりたい、あるいはなりたくないと思っていましたか?

管理職になる前には、はっきりとしたイメージはありませんでしたが、プレイヤーのときは、力強く物事を前に進めていくタイプだったので、そういうリーダー像を最初は持っていたかもしれません。

初めての管理職就任時

管理職に就任することが決まったときは、どのような気持ちでしたか?

2年間、担当係長を経験した後、32か33歳のときに、タイの生産管理部門長になりました。海外赴任をするときは日本での階層の1つか2つ上の階層を担うことが一般的に多いと思いますが、私の海外赴任時も同様でした。それまでは数人の後輩指導をしていたところから、400人の管掌ですから大きな変化です。

海外赴任することも管理職を担うことも誰もができる経験ではないので、その点は率直にうれしかったです。一方で、初めてのことだらけで責任も重かったので、もっと経験のある他の人がやってくれたらよかったのにな、という気持ちも最初はありました。

管理職に就任し、プレイヤーのときとの違いをどのようなところで感じましたか?

プレイヤーのときは、スピードと力強さが私の仕事の持ち味でした。問題が発生したら前面に立って、自分が主役になって正論を述べ、本質的なことをバシバシ指摘する仕事のやり方をしていました。ところが管理職というのは、自分が動くのではなく、メンバーが動いてこそ。自分は自分が思うように動けばよいのですが、メンバーにはそれぞれの視点ややり方がある。タイで、そうしたことに気づけるようになったのはだいぶ時間がたってからでした。

管理職に就任後、現在のようにチームメンバー全体のリーダーシップを醸成できるようになるまでには、どのような紆余曲折がありましたか?

管理職に就任したばかりのころは、急に400人を束ねる立場になった重責から、いま思うと、肩に力が入り、結果ばかりをメンバーに求めていました。

海外では「何でこんなことが起きるの?」というような、予想もつかない事態が日々発生します。自分では当然だと思う見通しが立たず、メンバーに自分の正論が全然伝わらないので、最初は苛立ちを覚えていました。結果こそ、タイでは高収益に寄与しましたが、メンバーから見ると、話が全然通じない管理者だったと思います。意見が上がってきても、「費用対効果は?」と詰めるようなやり方でしたから。そんな感じでしたので、メンバーからは徐々に自分に対して何も言わなくなっていきました。

物事の結果に至る過程や現場の事情をよく調べもせず、指示の意味合いをメンバーに丁寧に伝えることもしていなかったので、今から振り返れば力づくで運営していた点も否めません。持続できるような在り方ではなかった。

そんな調子で「これが正しい」「とにかくこうしろ」と上から一方的に指示を出していた結果、重要なキーパーソンを含めて、複数のローカルスタッフが退職してしまう事態が発生しました。それは、本当に自分にとって痛みを伴う経験でした。人生で同じ時間を過ごした縁ある方たちの人生を、自分が変えてしまった。自分でも涙が出る思いでした。

そんなとき、私と同じ部署から出向し、現地のスタッフと並んで仕事をしていた後輩が声をかけてくれました。「中口さんも彼らと同じ目線に立ってみては」と婉曲的な表現でしたが、指摘をしてくれました。後輩の指摘を受けて、自分がいかに上から指示を出していたかに気づき、ハッとしました。そこから、自分の考え方が徐々に変わっていって。それまでは、メンバーに対して「なぜ自分の考えを理解できないのだ」と苛立っていました。でも、メンバーの目線になったら、方針や物事の背景を抽象的にしか伝えられていないので伝わるはずがない。メンバーが現場で抱えていることもまったく見えていないので、メンバーが信頼を寄せないのも当然でした。

そのことに気づいてからは、現場からの報告を待つのではなく、自分から現場の状況を確認しにいくようになりました。改めて現場の作業を見ると、きれいごとでは済まない大変な作業をしている。メンバーの状況を理解できるようになってからは、改善が必要だと判断したら上長にお金をかけてでも体制や環境を整備するように上申もしました。現場作業負荷が軽減したことで現場の雰囲気も明るくなり、結果的に納入不良などのトラブルも減っていきました。ローカルスタッフとの関係も良くなり、少しずつ信頼が蓄積していったように思います。

メンバーの活動内容をよく見て、対話を重ねると、どこでメンバーが苦労しているかがよく見えるようになります。相手と自分は見える目線や持っている情報、抱えている事情、背景が異なるという前提で、人や物事に接していくという土台がタイでの経験で築かれました。

デンソーが手がけるコモンレールシステム
メンバーには隙を見つけては声をかける

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本ページ掲載の内容は、「調査1」部分のインタにビュー結果のごくごく一部です。

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