イノベーションは4つのアプローチで発想しよう
社会・企業、そして、ビジネスパーソンに対し、イノベーティブな発想に基づいた「新しい価値」が、かつてないほど求められています。一方、そうしたイノベーションを生み出す発想法は、個人の力だけでは身につけることが難しいスキルでもあります。
そこで今回は、『イノベーションの創り方』コースの執筆者の一人である小田原英輝氏(株式会社日本能率協会コンサルティング)に、「イノベーションを発想する4つのアプローチ」を中心にお話を伺いました。

必要性が広がるイノベーションを発想する力


―最初に、イノベーションを発想する力の必要性についてお伺いします。新商品やサービスを考える人以外にも、この力は求められるのでしょうか。

小田原(英輝氏、以下同) もともとイノベーションを発想する力は、おっしゃる通り、主に新商品、新サービス、新事業の開発担当者にとって必要なスキルとされてきました。
 それが、現在のように市場が成熟した状況となったことで、より多くの人に求められるスキルとなっています。たとえば、研究テーマを企画する研究・開発部門や、新しいソリューションを顧客に提案する営業・マーケティング部門など、さまざまな部門・分野で働く方にとって必要なスキルになっています。
 実際、近年では、関連する研修や通信教育を社員全員が受講し、企業全体としてイノベーション創出を目指すといった事例も増えつつあります。

―革新的なイノベーションを起こすために、ビジネスパーソンはどのような視点を獲得すべきでしょうか。

小田原 イノベーションは、ただ「革新的」なだけではなく、「誰かにとって役に立つこと」が同時に求められます。革新的な「シーズ」。そして、それを必要とする「ニーズ」がマッチしていなければ、世の中には受け入れられません。イノベーションを実践するには、まずシーズとニーズの必要性を理解したうえで、次の「4つのアプローチ」を覚えていただくとよいと思います。

イノベーションを発想する「4つのアプローチ」


小田原 「4つのアプローチ」とは、①未来洞察アプローチ、②社会課題アプローチ、③強み起点アプローチ、④オープンイノベーションアプローチのことを指しています(図)。
 ①未来洞察と②社会課題アプローチは、「ニーズ起点」の発想法です。違いは、②が既に社会で共通認識されている社会課題に着目するのに対して、①は環境変化から洞察される未来の課題に着目するという点です。
 ③強み起点と④オープンイノベーションアプローチは「シーズ起点」の発想法です。③が自社の強みや技術に着目するのに対して、④は社外の有望な技術やそれを有する企業に着目する、という点で違いがあります。
イノベーションを発想する4つのアプローチ
出展 : 「イノベーションの創り方コース」第1単位(日本能率協会マネジメントセンター)

―それぞれのアプローチから、どのようにイノベーションを発想していくのでしょうか。

小田原 商品・新事業アイデアの発想において、たとえば、①未来洞察アプローチであれば、法規制やライフスタイルの変化など、世の中の変化の兆しを見つけ出し、その変化から想定される未来の課題を洞察します。そして自社の強みを活かしながら課題解決策を発想していきます。
 ②社会課題アプローチでは、脱炭素などの環境問題や貧困といった社会課題に着目し、自社の強みを活かしながら課題解決策を発想していきます。たとえば、自社の製品・サービスのライフサイクルとSDGsなどの社会課題の分類を掛け合わすという方法を取ると、自社が取り組むべき社会課題を抽出しやすくなります。
 ③強み起点アプローチでは、技術や販売・サービス網といった自社が持っている強みの経営資源を棚卸し、それを新しい商品・サービスに横展開できないかを発想します。その際、発想フレームワークなどを活用して、強みの経営資源によって提供できる顧客価値を考えていくことが重要です。
 最後の④オープンイノベーションアプローチでは、最初に社外の有望技術や大学・ベンチャーといった有望技術を保有する組織を探索します。次に、その技術を応用できる商品やサービスを発想することで、新しいビジネスを企画します。
 なお、この「4つのアプローチ」のどれか一つだけに集中して取り組むよりも、複数のアプローチを併用することをお勧めしています。その方が、ニーズとシーズがうまくマッチした企画が生まれやすくなるためです。

イノベーションにつながる学び方・情報の触れ方


―イノベーションを創出するうえで日々心掛けるべきことや、お勧めの学び方があればご紹介ください。

小田原 やはり、ニーズやシーズの情報に日々、積極的に触れるようにすることが大切です。目の前の仕事だけをしていると、どうしても自分の周囲の情報や自分の専門分野の情報しか入らない状況になってしまうためです。
 たとえば、「世の中の変化の兆し」に関する情報に触れるようにするために、顧客の業界に関する専門雑誌を定期購読することなどをお勧めします。顧客業界はどのような方向に変化しているのか、変化によってどのような未来が洞察されるのかといったことを考えるきっかけをつくることが重要です。
 IT革命以降、以前よりも情報が格段に入手しやすくなっています。しかし、自分から能動的に動かないと、新たな気づきに繋がる情報を集めることはできません。また、誰でもネットで集められる情報だけではなく、顧客とのディスカッションで得られる生の情報を “足”を動かして集めるということも、是非実践していただければと思います。
 私自身、ネットはもちろん、複数の経済誌からの情報に加えて、台頭するベンチャー企業の把握、クライアントとのディスカッションなどにより、情報に対しては常にアンテナを張り巡らせながら、世の中のイノベーションの動向を注視しています。いま、世の中で起きているイノベーションこそ、次のイノベーションを生むためのヒントとなるためです。

―情報源の選び方や触れ方も工夫が必要なのですね。ありがとうございました。

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