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2005年1月号巻頭インタビュー

“緊プロ”が縦と横の技術の融合を促し、
オンリーワン商品を生み出す


シャープ 代表取締役社長
町田勝彦氏

社長に就任するとオンリーワン戦略を経営方針に打ち出し、「2005年までに国内で販売するテレビをすべて液晶テレビに替える」と宣言、薄型テレビ時代の演出者となったのがシャープ社長の町田勝彦氏。05年を待たずしてシャープのテレビは大半が液晶テレビに替わり、電機メーカー各社が赤字やリストラに苦しむなかで、過去最高の利益を出す“不況下の高収益”企業の一つになった。そして液晶テレビがきっかけをつくった薄型テレビブームは、日本経済をデフレから浮上させる大きな原動力の一つ になったことも事実である。なぜオンリーワン戦略だったのか。オンリーワン商品が生まれてくる土壌は何か。町田社長に聞いた。

インタビュアー:宮本惇夫
撮影:山本真也

イノベーションが成熟産業を成長産業に変える

- 液晶テレビがナンバーワンのシェアをもって世界を快走しています。町田さんの目論見通りに世界に広がり出したと見ましたが。

町田 当初液晶は大型化が難しいとか言われましたが、今日では課題視されたものはほとんどクリアされましたし、アメリカ、ヨーロッパでも売れ出しました。もちろんアジアはまだ完全ではないですが、先進国では完全に液晶テレビの流れができたと言ってもいいでしょう。画面はきれいだし消費電力も少ない、場所も取らない。価格も下がり出しましたし本物でしょうね。

- 薄型テレビではプラズマ、さらに来年以後はSED(表面電界ディスプレイ)方式など新しいディスプレイとの競争も激しくなると予想されていますが。

町田 恐らく競争は関連産業の広がりによって左右されるのではないでしょうか。シャープ1社では何もできないわけで、いろいろな関連メーカーとの総合力によって決定されてくる。その点、液晶はカラーフィルターや偏光板、バックライト、マザーガラスなど関連メーカーの裾野が大きく広がってきています。結局、裾野が広い産業が勝ち残っていくと私は見ています。実際、液晶では先ほど申し上げましたような大型化や視野角、応答スピードなどすべての課題が解決されつつあります。

- デフレ不況を浮上させてきた牽引車は液晶テレビではないかと思っているのですが。

町田 プラズマを含めた薄型テレビがその役割を果たしたことは確かでしょうね。世界のテレビ需要は年間1億3千万台で、液晶が占める割合はわずか700万台。今後大きな産業に育つことは間違いないと思います。ディスプレイをブラウン管から液晶に変えただけでこれだけ需要が広がったわけで、これからは白物家電などの成熟商品も成長商品に変えていかなければならないと考えています。それにはなんと言っても技術開発が重要です。
われわれメーカーは他社にない新しい技術を開発すれば成熟商品を成長商品に変えることができます。これが魅力です。
当社では本年9月、新しい調理器ウォーターオーブン「ヘルシオ」を発売しました。これはマグネトロンを使わず300℃の過熱水蒸気で焼くという調理器です。食材に含まれる塩分や脂肪分を落とすことができ、ヘルシーオーブンとして大変ヒットしています。パンや魚なども表面は香ばしく、中身はふっくらとした焼け具合で、先ごろは鰻屋さんが買いにこられたと聞いています。加熱原理をマグネトロンから過熱水蒸気と全く新しい手法に変えることによって、新たな需要が出てきます。こうしたイノベーションを起こさなければ、成熟商品は成長商品に変わらないのです。

ないものをつくるのもメーカーのCSR

- シャープは次々と世の中にないユニークな商品を創り出します。これはどこからくるのですか。

町田 最近よくCSR(企業の社会的責任)が話題になりますが、私はメーカーの場合、やはり世の中にないものをつくることもCSRではないかと思っています。 私は社長に就任した時、経営理念をつぶさに読んでみました。「いたずらに規模のみを追わず、誠意と独自の技術をもって、広く世界の文化と福祉の向上に貢献する」 つまり、「他社と同じものを追っているだけでは、社会に貢献することにならない」と述べています。経営理念や経営基本方針で訴えているのはまさしくCSRであると私は感じたわけです。
それぞれ企業形態によってCSRは異なるかもしれませんが、当社のようなメーカーの場合、世の中にないものをつくる、これは大事な社会的使命ではないでしょうか。 世の中にないものをつくれば会社の成長にも産業の発展にもつながる。そこで私は社会貢献にもなり企業戦略上もプラスであるという2つの視点から、オンリーワン戦略を打ち出したわけです。

- でも当時、液晶テレビがどこまで消費者に受け入れてもらえるか。大変勇気のいる決断だったと思うのですが。

町田 社長になった98年は、電機業界もたいへんな不況の年でした。また台湾や韓国、中国のエレクトロニクスメーカーが力を付け、従来のように国内メーカー同士で争っていればいいという時代ではなくなってきていました。グローバルな競争下での生き残りという厳しい時代になっていました。
ここで7兆円、8兆円規模の同業者と闘っていくには、企業のあるべき姿と方向性を明確に打ち出していかなければならないと思い、液晶を前面に押し出したクリスタルクリアカンパニーという理念と、オンリーワン戦略という方向性を打ち出したわけです。
ただクリスタルクリアカンパニーは社員の意識に充分浸透してきたこともあり、最近は「環境先進企業」を 目指そうと言っています。

根づく緊急プロジェクト制の文化

- 環境先進企業といえば、次の時代の主役といわれる太陽電池でもシャープは世界ナンバーワンのシェア(約25%)を持っています。なぜオンリーワン商品が次々と生まれるのでしょうか。そのような商品を生む組織、風土、システムについてお伺いしたいのですが。

町田 まず「技術の融合」が不可欠です。技術の融合には横の技術の融合と縦の技術の融合があります。例えば通信の技術だけではカメラ付携帯電話は生まれません。ワープロやパソコンで培った情報処理技術、カメラで映像を映して伝送する映像技術、いろいろな技術が融合してカメラ付携帯電話は生まれています。これが横の技術融合です。
もう一つの縦の融合というのは、オンリーワンのキーデバイスを応用して商品をつくる。液晶が良い例で、液晶という独特のパネルを応用して液晶テレビをつくる。 デバイスと商品を融合させるタテの融合、異なった技術を融合させるヨコの融合。言わば技術と技術を融合させて化学反応を起こし、新たな商品を生み出すわけです。
いまは、技術の進化が一段と早まり、高度化してきています。したがって技術と技術を融合させないと新しい商品が生まれない。そんな時代にきていると言えます。その技術を融合させる仕組みとして当社の場合、77年に発足した「緊急開発プロジェクト制度」が有効に働いています。社内では、通称“緊プロ”と言っているのですが、社長直轄の制度で予算は原則上限なし、人材も指名ができ、緊急を要する技術や商品の開発に当たる横断的なプロジェクトチームです。

- 発足して27年経っているのですね。

町田 実を言えば、最初はとても苦労をしました。当時はシャープでもタテ割りの組織間の壁があり、人を出せといっても優秀な人材は出てこなかった。しかし継続は力なりで27年も経つと、緊プロ組のなかから事業部長や本部長、役員が出てくる。ということは緊プロの風土ができてきたということを意味します。彼らは緊プロをやったことで技術の幅が広がり、技術者として大変プラスになったことを知っている。これは非常に大事な制度だと理解している。いまでは緊プロなんて言わずに勝手に組んでやっているケースもあります。そのくらい組織の壁がなくなり融合の風土が出来上がってきたといえます。過去27年間で200チームほどの緊プロが生まれ、現在でも年間10チームほどの緊プロが動いています。これがシャープのここ20数年の発展の原動力であることは間違いありませんね。

- これまで多くの企業が、貴社の緊プロをまねて技術や商品開発に取り組んだようでしたが、成功したという話はあまり聞きません。

町田 まず最初にトラブルが起こり、これは難しいという結論が出たところがほとんどではないでしょうか。それほど組織というのは難しいものです。だから私どもでは分社制、カンパニー制は採りません。壁ができるような組織はとらないのです。

−以下省略−

●Profile
町田勝彦(まちだ かつひこ)氏
1943年大阪府生まれ。京都大学農学部卒業。
69年早川電機工業(現シャープ)に入社。
87年取締役 国内営業本部副本部長、90年常務取締役 家電事業統轄、
92年専務取締役 海外事業本部長、98年社長に就任。