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2005年1月号おすすめアーティクル

なぜいま「学習する組織」が求められているのか

ヒューマンバリュー 代表取締役
高間邦男

企業を取り巻く世界の急激な変化は、ビジネスサイクルの急速な短縮化と知識や技術の更新スピードの高まりと、経営環境の複雑化いう形で企業や働く人々に大きな影響を与えている。このような変化によって引き起こされる問題は、これまでの考え方や経営手法では対応できないため、さまざまな手法が生み出されてきた。米国では、世界の先端企業と MIT (マサチューセッツ工科大学)、ハーバード大学などが協力して数々の調査研究と企業内での実践的な試みを行い、1990年代の初めに「ラーニング・オーガニゼーション(学習する組織)」という概念が提唱された。この概念は、その後もマネジメントの基本的な考え方として定着し、さらなる進化を続けている。

学習する組織が提唱された背景

 ビジネスサイクルの短縮化によって、技術、知識の更新スピードが高まり、保有する知識・ノウハウの陳腐化が早くなったため、既に80年代には、多くの企業の現場では仕事の具体的な知識を上司が部下に指導できる時代が終わった。そして90年代には組織的に従業員が必要とする知識をマニュアルなどで伝承することも難しくなってきた。そのために、現場で働く人々は自ら現場で学習し、知識、ノウハウを身につけ行動していく必要が生じてきたのである。

 また、グローバリゼーションによる社会環境の変化が原因となって、ビジネスを行ううえでの重要な資源は、「モノ」や「カネ(金)」から「知識」へと移行し、まさに「知識の時代」あるいは「知識経済の時代」が訪れたのである。金や資本を保有していることよりも、どういった知識、ノウハウを持っているか、そして、それを常に更新し環境変化に適応した最新のものとなっているかが、ビジネスを大きく左右する時代を迎えたのである。

 こうした背景から、従来のようなトップダウンでの統一性、効率性、均一性、秩序化などを重視していた統制する組織では変化に対応できなくなったため、カオスに近い複雑性にスピーディーに適応し、それぞれの組織で自律的に変化を先取りして価値を創造していく学習する組織が求められるようになったのである。

学習する組織とは何か

MIT(マサチューセッツ工科大学)のピーター・センゲが1990年に著した“ The Fifth Discipline ”(邦題『最強組織の法則』徳間書店)が、米国でベストセラーになって以来、ラーニング・オーガニゼージョン(以下、学習する組織)は欧米で大きな注目を集め、それに関する研究と実践が、現在も世界規模で進められている。この本は「ハーバード・ビジネス・レビュー」誌の97年の創刊75周年記念特別号で、過去10年間において米国の経営思想に最も大きな影響を与えた書籍の2冊のうちの1冊として取り上げられたほどである。

学習する組織とは、環境の急激な変化が生み出すさまざまな問題に対応するために、

・企業内外の状況を構成している諸要素の複雑な相互作用を把握する力を養い
・組織メンバーのコミットメントと創造性を高め
・チームや組織として個々人の力を結集するスキルを養う

ことを目指した概念、経営手法として採り上げられていた。

当初は、組織における「学習」の重要性について喚起し、組織、社会のさまざまな学習を阻害する要因を指摘し、個人の学習成果が高まっても、それが必ずしも組織の力として反映されないという問題を採り上げていた。

 ピーター・センゲは、最初の著書で学習する組織を実現するための5つのディシプリン(規律)の取り組みを提唱していた。  

センゲによれば、学習する組織の概念は、「自己マスタリー」「メンタルモデル」「共有ビジョン」「チーム学習」「システムシンキング」 という5つのディシプリンによって構築されているという。この5つのディシプリンは、学習する組織を実現するために、どれ1つを取っても欠かせないもので、生涯を通じて向上させていく『道』(プロセス)のようなものだとしている。

 それぞれのディシプリンについて簡単に説明してみよう。

 まずスタートは自己マスタリーから始まる。これは自分自身が心底から望んでいるビジョンや目的に忠実に従って生きようとするプロセス(過程)のことである。そこでは、自分にとって何が大事であるかの意味、目的、ありたい姿を常に明らかにし続けることが必要であるという。これは、自分たちの選んだ目標に向かって自己啓発を進める組織環境をつくり出すことへもつながる。

 次のディシプリンはメンタルモデルである。これは、一人ひとりが持っている「思い込み」や「固定観念」のことを指す。個人の思考や行動に強い影響を与える自分のメンタルモデルを常に内省し、明らかにすることによって、改善を続けることが重要だとしている。これを検討するツールとして「推論のはしご」がよく活用されている。

3つ目のディシプリンは共有ビジョンである。これは、組織のなかのすべての人々が共通して抱いている心のイメージとしての共有ビジョンを持つことで、メンバー全員が選んだ未来像や目標に向かって自己啓発を進める組織環境をつくり出そうというものである。

 4つ目のディシプリンはチーム学習である。チームのメンバーが本当に望んでいる成果を生み出すために、対話を通して学習を引き出し、個人の力の総和を超えたチームの能力をつくり出していく過程をいう。これを実践するツールとしてダイアログが紹介されている。このダイアログは物理学者のデビッド・ボームが提唱したもので、 MIT 組織学習センターのダイアログ・プロジェクトの責任者を務めるウィリアム・アイザックス等によって展開されている話し合いの方法である。

5つ目のディシプリンがシステムシンキングである。これは、さまざまな要素が複雑に関連し合っている問題の全体状況と相互関係を明らかにすることによって、解決策を見いだす技法であり、そうした問題について話し合い理解し合うための言語だとしている。

 このシステムシンキングについては、 01 年に日本能率協会マネジメントセンターから出版された、バージニア・アンダーソン、ローレン・ジョンソンによる『システムシンキング』とダニエル・キム、バージニア・アンダーソンによる『システムシンキング・トレーニングブック』が参考になる。

これらの5つのディシプリンは相互に影響し合い成り立っているので、5つのすべてを実践することにより、大きな相乗効果が生まれるとしている。

−以下省略−
続きは、 2005 年1月号でお読みいただけます

●Profile
高間邦男(たかま くにお)氏
明治大学商学部卒。現学校法人産能大学総合研究所勤務の後、産能大学総合研究所事業本部講師として数多くの企業の研修を担当。1985 年有限会社ARM(現ヒューマンバリュー)を設立。 企業のさまざまなニーズに合わせたリーダーシップ開発、コーチング、セールストレーニング、プレゼンテーション、管理者研修などの研修システムをオーダーメイドで作成し、企業内で展開することを主に実施してきた。96年以降は学習する組織についての研究調査を行い、システムシンキング、ダイアログ、コンピテンシー、人事制度改定などさまざまな切り口から企業の組織変革について取り組んできている。主な著書・論文に『共感性と柔軟性を高める』 ( 産能大学 通信教育 ) 、『コーチングの技術』 ( オーエス出版 ) 、『Eラーニングの現状と今後の展望』、『こうすれば成功する研修効果測定の考え方・すすめ方』(以上、産労総合研究所『企業と人材』)などがある。