【最終回】 書くことからのふりかえり:手書きの効用



 アメリカに渡米して13年。この間、さまざまな仕事をしてきたが、修士過程を修了したことを契機に、拠点を日本に移した。

 この1か月、引越や、荷物整理、挨拶に追われて慌ただしい状態が続いているが、一方で、思い出に触れながら、人生を振り返る時間にも恵まれている。

 

 家族や友人と昔話をしながら、自分の行動を思い出し、「何であの時あんなことをしたんだろう」と改めて反省することもしばしば。特に、アメリカ生活の日記や、学んだこと、気づいたことを書きとめた記録を読み返していると、当時の様子や自分の感情が生き生きとよみがえり、様々な思いが込み上げている。

 楽しかった経験や、失敗して落ち込んでいる様子、自分を励ます言葉が書きこまれていたり、感動した映画やドラマの感想ををまとめていたり。短めに丁寧に書くこともあれば、何ページにもわたり、感情のおもむくまま書きなぐっていることも。文字だけでなく、絵や図で表現しているページもあった。

 筆圧や文字の大きさからも心の動きが読み取れ、手書きの文字は多くのことを物語っていた。一生懸命な自分がかわいくなるとともに、自分の強みや弱みを冷静に考えられるようにもなるのだから不思議である。

 

 しかし、なぜ手書きにはそんな不思議なパワーがあるのだろうか。興味を持ち、手書きの効用を調べていると、下記のようなイギリスの調査結果を見つけた。

 紙に日記を書くことと、PDA(個人用の携帯情報端末)を使ってネットにアクセスし、ブログに記載することの違いを調べたものだが、面白い結果が含まれている。紙で書くと「読み返しやすく、また、読み返したくなる」という点だ。

 

 ゆったりと座りながら、次に書くことを考える中、パラパラと前のページをめくり、自分の文字を読み返せると「継続している」という感覚が生まれるのだという。そして、もっと表現したくなり、さまざまな過去のできごとや学習したことをふりかえり、結びつけるきっかけになるそうだ。

 

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●「学習とアセスメントのための日記活用:デジタル日記(ブログ)と紙に手書きした日記の可能性」調査(2007年12月)から抜粋(*)

[イギリス、サンダーランド大学]

※調査内容:

生徒は学習したことを記録し、振り返るために、どのようにブログや紙の日記を使うのか。それぞれのツールの比較。

※対象者:

イギリス、中規模の大学、情報・コミュニケーション・テクノロジー教育学部、学生68名

※調査方法

・教育実習中の重要なできごとについての日記を書かせる。(単位取得に必須となっている)

・学習したことと、自己理解の2つの領域で、できごとや感情を書きとめる。

・紙(A5判)に書くグループと、PDA(個人用の携帯情報端末)を使ってネットにアクセスし、ブログに記載するグループに分類。

 

●結果(抜粋)

・デジタルグループの方が紙グループよりも頻繁に日記をつけていた。

・ただし、紙グループの方が1回の記入量が多かった。

・デジタルグループは1回の記入量が少ないだけでなく、完全に記入できていないこともあった。

・紙グループは過去の記憶や学習と結びつける傾向が見られた。

・デジタルグループは持ち運びやすさ、手軽さをメリットとしてあげていた。

・紙グループは紙の感触を気にいっていた。また、記入したことを何度も読み返せること、読み返したくなることをメリットとしてあげていた。

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 人の書く文字にはそれぞれ特徴があり、人柄や人生を表すこともある。また、自分の分身のような文字を見ていると、愛着もわく。だからこそ、自然と読み返したくなるのかもしれない。

 そして、思いもかけずに前のページに戻り、「過去」の自分の感情を思い出していると、つい「今」の自分が感じたことを追加で記入したくなることもある。偶然の「ふりかえり」の場が生まれているのだろうか。

 ふりかえることの効用が、あいまいだった記憶を鮮明にし、客観的に自分を見つめ、「気づき」の機会を得ることだとしたら、ふりかえりの場を増やす「手書きの効用」はなかなか魅力的である。

 さて、東京に戻り、14年前に所属していた日本能率協会マネジメントセンターに改めて入社し、日本での日記もスタートした。生活の変化に戸惑う自分をいつかふりかえった時、将来の自分は何を気づくのだろうか。手書きの日記はこれからも楽しませてくれそうだ。

 

(2年間ご愛読ありがとうございました。)

*参考:「Using digital and paper diaries for learning and assessment purposes in higher education: a comparative study of feasibility and reliability」

(Alan Gleaves, Caroline Walker and John Grey, University of Sunderland, UK)