【最終回】 改善と改革(2)
前号の要約
前回は『改革』のうち、『改善』について学んだ。
テイラーとギルブレスは『時間研究』と『動作研究』によって生産現場の作業を分析し、その中から無駄な部分を排除して標準時間を決め、全体の工程を管理していくやり方を決めた。
日本では、このように仕事のやり方をよりよくする方法を普及させたが、こうしたやり方 (今までの仕事の基本的なやり方は変えず、その方法をかえていくこと)を『改善』といい、第一線管理者の重要な任務として一般に認識させるに至った。現場第一線管理者の責任の重要なひとつは、この『改善』を教育し、絶えず実行の促進をしていくことにある。『改善』とはこうしたもので、生産作業だけでなく、販売・事務などのすべての部門の責任となっている。
販売代理店における販売方法の変遷
次に、自動車販売代理店(ディーラー)における販売のやり方は、もともと最初は『訪問販売方式』というものであった。まず、販売員候補者を採用して、セールス第一線における売り方の考え方や手順方法を教育する。最初一年は見習いとして、先輩の指導の下に実務を経験させ、その後は自分の年間販売目標を設定して自主的に家庭を訪問し、販売をすすめるというやり方であった。
このやり方は、日本での自動車の初期段階における販売方法としてはよい仕組みであったが、乗車用の販売が進み普及するにつれて、だんだんと効果が薄くなっていった。その理由のひとつは、すでに車を持っている人は、新車に買い替えるためにディーラーを訪問して交渉することが多くなり、『訪問販売』よりも『店頭販売』の方が手早く的確になり始めたからである。そこで販売代理店では、『訪問販売』よりも『店頭販売』、今までとは逆に訪問よりも来店を促進し、店頭で販売を決めるやり方を有利と判断し、ここで自動車販売のやり方の革命が起こった。
店頭販売方式の詳細
店頭販売方式への変革を具体的に述べると、次のようになる。まず、主として販売代理店を都市の郊外に設置していたのを、より来店に便利な市心に移転することからはじめた。なんといってもすでに車を持っている顧客が、もっと来店しやすいようにするためである。そして、店頭に新車を陳列し、従来は男性セールスが中心であった販売担当者に、女性もどんどん参加させるようにした。
男女の販売担当者は、出勤するとすでに他の係りで作成してくれた見込み客リストを受け取り、まず電話で来店を誘導する。これを毎日午前中の最初の仕事にする。さらにダイレクトメールを立案し、これを見込み客に配って来店を確実なものにしようと努力する。こうして販売担当者は店頭で待ち構えるのである。来店した担当者は、今までのようなやや強引な販売勧誘方法でなく、むしろ新車の内容を見込み客に興味深く観察させ、その質問に答えるという、やや受動的なやり方で対応する。これである程度の販売実績が確保された。
そのうちに、こうした来店者の来店日が土日祝祭日などの休日に半分以上集中することがわかり、これらの日々に販売の重点が移りはじめた。まず、ディーラー別に試乗専用車をおき、来店した見込み客には次から次へと新車を試乗させる。これで買いたいという結論が出てくる場合が多くなったが、さらにこの場合、買うことを決める顧客の主人や奥さんだけでなく、子供さんたちまでを、一緒に来店させ、勧誘することの有効性を学んだ。つまり、実際に購入資金の心配をしない人々の『買って、買って』という援軍が多くなるからである。
こうして、新規顧客獲得の中心が週末祝祭日に移行し、こういうやり方で販売第一線が回転することが主力となっていった。
これが『店頭販売』の実相である。
セールスコンセプトの変化
以上のような『訪問販売』から『店頭販売』への変化は重要な意味を持つことになった。つまりは、販売成功の現場が訪問する家庭から、店頭に変わってきたということである。
こうした変革、つまり販売原理の変更を『改革』と称する。簡単に言えば、販売の考え方の根本を大きく変え、コンセプトを変更することである。
前号で述べた『改善』は、コンセプトが変わるのではなく、『方法』だけの変化であった。『改革』は根本的にそのコンセプトから方法論までを一貫して変革するやり方である。この『改革』は、販売台数の増加と市場の成熟につれ、現在の主要な販売方式となっている。
『変革』の手順
この『変革』は大変重要な変化であるが、第一線にこの『変革』をおこすにはどうしたらよいか。これは主に、第一線セールススタッフを管理する代理店経営者や、本社のロードスタッフ(販売店を巡回して販売の促進を指導する人々)の仕事である。こうした幹部責任者は第一線での顧客の動きや行動の仕方を常に注意深く観察し、新しいやり方の成功を個別に注意深く分析して、顧客のどこが変化しつつあるのかをよく見極める。そして、ここからコンセプトや改革の発想の基本がどうなるべきかを提案し、それを販売首脳部の『改革』の原点として決定する。
その上で、店長や本社販売責任者が第一線セールススタッフを集め、新しいやり方を提案する。これは発想の大きな転換なので、セールススタッフからはこれに対する反対論が起こるのが普通である。しかも一回や二回の話では第一線のセールスの考え方が変わるような簡単なものではなく、まずは、発議してから3ヶ月ないし半年くらいは議論が必要になる。説得をする側は、粘り強く、セールス全体の考え方が変わるところまで説得を続けなくてはならない。
こうしてコンセプトが決まれば、その具体的な手順や方法は第一線セールスにまかせて、その人々がすべて自分が決めたと思うような決定の仕方をしたほうがよい。それは人間には、自分が決めたと思い込む方向に行動することを促進する傾向があるからだ。
そうして、セールスの店頭いはとどまり、来店客を待つ。その対応の仕方、その他その後の行動については、自然によりよく売れる方向に決まっていくものだ。
幹部が大切
この『改革』をうまく進めるには、なんと言っても現場の店長や責任者、および本社の販売幹部・ロードスタッフの敏感な現場変化への対応が鍵である。ここがうまくいかないと『改革』は進まない。訪問販売から店頭販売への転換によって、この顧客変化に早く気づいた企業が早い『改革』を成し遂げ、それによって販売実績でそれに遅れた企業と大きく差をつけることができた。
新しいコンセプトに気づくことと一緒に、その後の第一線セールスの説得での粘り強さ、新しい考え方を徹底させることも当然重要である。経験的に言って成功例が多いのは、しっかり全員の考え方が変わった後は方法にヒントを与えるのみにとどめ、後は現場に任せるやり方である。
『改革』は、一般に現場および本社の販売幹部の顧客変化への感度と変化への決心、さらに慎重で粘り強いセールスの説得が成功の鍵であり、特にこれらは本社および現場の販売責任者の価値を実質的に決めるものである。
こうして『改革』は『改善』と共に業績を激変させる主要な方法となってきており、一般には古参課長以上の幹部全員がこの考え方や方法に習熟しなければならないものである。
(ご愛読ありがとうございました。)
Copyright 2008 - 2012 JMA Management Center Inc.
