2003年3月/作家 室井佑月さん

Profile
1970年生まれ。ミス栃木、モデル、女優、レースクイーン、銀座のクラブホステスなどを経て、97年に小説家デビュー。代表作に『熱帯植物園』(新潮社)、『血い花(あかいはな)』(集英社)、『piss』(講談社)などのほか、エッセイでも人気を博す。テレビ・ラジオでも活躍中。
Interview

デビュー前のホステス時代、寝る時間を削って、作家修行をしていたそうですが。
そうするしか勉強の時間を作れなかったので。夜中、クラブの仕事を終えて帰ってきたら、まず水を一気飲みして酔いを覚ます。それから、ひたすら小説の勉強を朝までする、という生活でしたね。
そこまで頑張れた原動力は?
「作家になる」という強い目標があったから。だから、寝れなくても、全然辛いとは思わなかったですね。私は天才肌ではないので、努力しなくちゃダメだと思っているんです。そのためには、人が寝ている時間に頑張らないと。よく「運がいい」といわれるんけれど、私の場合は「運」ではなく、「意志の強さ」でここまでやってきたんだと思うんです。
目標に向かって一直線、というイメージですね。
今もまさに目標に向かって走っているところ。それは家を買うこと。おととしの離婚をきっかけに、息子と住める自分の家を持とうと決めたんです。そのために去年は、モーレツに仕事をしました。時間がないという点では、修行時代よりも、きつかったですね。1年間で一番続けて寝たのが、たった5時間でしたから。
それほど忙しい中、子育てと仕事の両立も大変ですよね。
息子がいるときは、なるべく一緒に過ごす時間と決めて最優先しています。だから、仕事は息子が保育園でいない時間か、寝ている間にやるしかない。ものを書くにはまとまった時間が必要なので、結局、睡眠を削ることになるんです。でも、今は子育てが一番楽しいから。大変ではあるけど、辛くはないですよ。
時間がない中で、仕事の効率はどう意識してますか?
小説やエッセイを書く作業は、効率という枠にはあてはめにくいものですよね。ただ、私の場合、忙しいほうが能率が上がるのは確かです。自分のための勉強は、特にそう。小説の下調べや、好きな作家の文章を書き出す文章修行は、忙しい時間をやりくりしてやるほうが、断然はかどります。暇な時はかえってダラダラして、記憶力も鈍っちゃう。忙しいからこそ、集中力がさえてくるんです。

どれだけ集中できるかが、鍵なんですね。
私、集中するとトイレに行くのも忘れるし、息子が泣いているのも気づかないくらい。ただ、昔はそこまで集中した状態になるのに、今よりもっと準備の時間がかかっていたんです。今、昔より早く書けるのは、手を抜いているわけでも、要領がよくなったわけでもないんです。集中の仕方を覚えたということでしょうね。
選択に迷わないための判断基準を持つ。それが時間を上手に使う近道。

ハードスケジュールを普段はどう管理しているんですか?
もともとすごくルーズなので(笑)、スケジュール管理なんて偉そうなことはいえないんです。手帳を使い出したのも3年前から。それまでは手帳を買っても、全然続かなかったんです。でも、ここ数年、仕事がとても忙しくなったこともあって、手帳を使ってみたら、「世の中にこんなに便利なものがあったのか!」と感動しちゃいました(笑)。
手帳を具体的にはどのように使っているのですか?
テレビ出演などは、マネージャーが手帳に落とし込んでくれます。そのほかに自分で受けている雑誌の取材などを書き込んだりしてますね。あとは、プライベートの予定。仕事と違って、プライベートは全然約束を守れないので、友人が書き込んでくれたりして(笑)。
原稿の締め切りも手帳で管理しているのですか?
手帳に締め切りは書かないですね。原稿の締め切りは、手帳を見なくても頭にしっかり入っているから。書くのは本業なので、やっぱり気持ちの入り方が違うんでしょうね。今も連載は月刊7本、週刊3本抱えていますが、全て頭の中だけで管理してます。
それだけたくさんの締め切りをこなせる理由は?
仕事が立て込んで、「今度こそ原稿を落とすんじゃないか」というプレッシャーで1週間吐きつづけたこともありますよ。でも、忙しい方が暇なより全然いいと思ってますから。それに、締め切りを守るのも原稿料のうち。だから、締め切りはちゃんと守ります。
そこまでシビアに締め切りを考えているんですね。
「締め切りは守る」「原稿が早い」となれば、仕事のチャンスだって広がるでしょう。他の作家が原稿落としたときに、ピンチヒッターで使ってもらえることだって、あるかもしれない。私が世の中に出てこれたのも、そういう代打原稿がきっかけだったんです。だから、今でもいつだって代打原稿のチャンスがあれば、やりますよ。自分にとってもいい勉強になるとも思うし。

ただ、仕事量が多いと、なかなか時間を使いこなせなくなりがちですよね。
時間を上手に使いたければ、ものごとの優先順位をしっかりつければいいんですよ。大まかでもいいから、自分にとっての優先順位があれば、判断に迷うことがなくなるはず。悩んで立ち止まっている時間って、もったいないですよね。
よりどころとなる判断基準をもつということですか?
仕事もそうだし、生きていくということは、選択の連続ですよね。そこで選択基準さえあれば、すぐに次のステップに進めるわけですから。もし仮に、失敗したとしても、経験という財産になると思えば、それは決して無駄にはならないし。それが私の考える時間の上手な使い方ですね。
