2004年11月 精神科医 和田秀樹さん

CLOSE UP 時間管理の達人 第26回 精神科医 和田秀樹(わだ・ひでき)さん(44歳) 仕事の目標値は「時間」ではなく「量」で決めるのが鉄則 年間50冊以上の著作を発表しながらも、心理学ビジネスを立ち上げ、さまざまな分野で活躍する和田秀樹さん。その膨大な仕事量をこなす時間術の秘密とは?

Profile

1960 年生まれ、精神科医。東京大学医学部卒、アメリカ・カールメニンガー精神医学校国際フェロー。日本初の心理学ビジネスのシンクタンク、ヒデキ・ワダ・インスティテュートを設立し、代表に就任。国際医療福祉大学教授、一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。心理学、教育問題、老人問題、人材開発、大学受験などのフィールドを中心に、テレビ、ラジオ、雑誌や数多くの単行本を執筆し、精力的に活動中。
http://www.hidekiwada.com/

Interview

人の何倍もの仕事量をこなせることが、長所の一つとのことですが。

それは今に始まったことではなくて、昔からそうなんですよ。学生時代から、ライターや塾を立ち上げて経営したり、いくつものことを同時にやってきました。今も、執筆だけに専念しているわけではなくて、週1回以上は病院で診療もしていますし、さまざまな心理学ビジネス、教育ビジネスも立ち上げています。そうやって、たくさんの仕事がこなせるのはなぜか? それは僕に才能があるからなのではなくて、やり方の問題だと思います。仕事の仕方や習慣を見直せば、誰でも仕事量を増やせるんですよ。

どんなやり方や、習慣が大切なんですか?

一番の基本は、目標を「時間」ではなくて「量」におく、ということですね。受験勉強でも、仕事でも1日何時間やったかより、どれくらいこなしたのか、ということが大切。もっといえば、実績となった量、つまり自分の中に残った量が一番大切です。例えば、読書でいえば、1冊を3時間かけて読んで、ほとんど頭に残っていない人と、重要なキーワードは全部頭に入っている人がいる。同じ時間をかけても、自分の中に蓄積した量が違うんです。当然、後者が仕事のできる人間ですよね。僕自身、本を1冊、すべて読むことはほとんどなくて、大切な部分を飛ばし読みするだけ。そのかわり、自分が重要だと思ってチェックした部分は何度も読んで、頭に叩きこみます。そうやって、「どれだけ残すか」を目標にするべきでしょうね。


先に目標となる「量」を決めると、そこから所要時間も見えてくる?

その通りです。そのときに大切なのが、「時間を読める」ということ。この仕事量に、どれくらい時間がかかるのか、それがしっかりわかっているようにしたいですね。僕の場合も、1日何枚原稿が書ける、口述筆記なら何時間で何章できるというのが、頭の中に入っています。だから、空いている時間にどんな仕事を入れ込めばいいのかが、自ずと見えてくるんです。仕事と時間がパズルのようにきっちりはまって、どんどん効率がアップしていくんです。

2001年に年間31冊だった本の執筆が、02年は44冊、03年は55冊、04年には60冊。ものすごいスピードでペースが上がっていますね。

それは時間を読むだけではなく、常にそれを見直すという作業をしているから。この仕事量をこの時間内でクリアした、ということに満足して終わるだけでは、進歩がありません。クリアできた時点で、もう一度、その作業を見直すんです。さらに効率的にできないかという視点で、改めて時間を読んでみる。そうすると、3時間かかっていたことが2時間になり、またそこで使える時間が増えていくんです。

新しい分野をどんどん切り開けるのには、理由があるのですか?

僕の本業である心理学は、どんな分野にも応用できるものなんです。日本では、政治だから政治の専門家、経済は経済の専門家に、と考える人も多いですが、それでは既存のありきたりな意見が出るだけ。例えば、アメリカとイラクの問題にしても、心理学の側面からそれぞれの国民の考えを分析して政治の場に生かす、というやり方があってもいいと思うんですよ。アメリカでは、政治にも、心理学を取り入れたりしているんですけど、日本ではまだまだ。もっといろいろな分野で心理学をうまく利用するようになるべきですよね。


これからは専門家よりも何でも屋の時代とも、提言されていますね。

スペシャリストを使うのは、ゼネラリスト。トップに近ければ近いほど、ゼネラリストでなくてはならないと思うんです。日本では、営業のスペシャリストがそのまま出世して社長になる、ということはよくありますが、外国は違う。出世する人は、早い段階で小さな会社の社長をやって、それが成功したらもう少し大きな会社、そしてさらに大きな会社の社長に、というステップを踏むようになっています。日産のカルロス・ゴーン社長がその典型的な例です。要は経営者としてのトレーニングを積んでいくわけです。小さい会社を経験すれば、営業から経理、宣伝まですべてがわかるでしょう。現代のように世の中の専門分野が進めば進むほど、すべてがわかるという人材のニーズが高くなるものです。

頭を下げて、専門家に話を聞く。これこそ、最も効率的なインプット法


精力的な仕事ぶりを支えるための努力も欠かせないと思いますが。

そうですね。時間を効率的に使うことのメリットには、勉強する時間が増えることだと考えているくらい、日々勉強することへの努力はしていますよね。物知りだからたくさん本がかけると、誤解されがちなんですが、決して僕は物知りなわけでもなんでもないんですよ(笑)。いろいろな種類の本を書くために勉強をするから、結果として物知りになるだけ。本を書くことが勉強するきっかけを与えてくれているんです。もちろん、いろいろなことを勉強する分、常に効率的な方法を心がけていますよね。


具体的には、どんな方法が効果的なんですか?

インプットの時間を節約するには、その道の専門家に話を聞くのが一番手っ取り早くて、中味が濃い方法です。専門家にガイダンスを聞けば、無駄な読書をする必要もないし、そこから、今、何を勉強しておけばいいのか、どこが心理学と関わりが深い部分なのか、という核心も理解できます。日本では偉くなればなるほど、人に話を聞く、ということをしなくなってしまうんですが(笑)、それってすごく損ですよね。偉い人だからこそ、「教えてください」と頭を下げて頼む価値も高くなる。その道の専門家に話を聞くチャンスも多いはずなのに、そのチャンスをうまく生かせてないんですね。

社会的地位が高くない、普通のビジネスパーソンの場合は、どうしたらいいですか?

まずは、自分で努力することから始めるしかないですよね。自分がまだ頭を下げる価値がないな、と思っている間は、ひたすら勉強する。そして誰かに話を聞けるチャンスがあるときは、徹底的に低姿勢で教えてもらいたいと頼むしかないと思います。そこまで熱意を持って教えを乞う人には、頼まれた側もむげにはできないでしょう(笑)。問題は、そんなに偉くないのに、頭を下げられない人も結構多いことですね。多分、妙なプライドが邪魔をするんでしょうが、損はしても得することはないと思います。


ところで、書くことで思考を整理する方法論も提案されていますね。

頭の中で考えていることというのは、考えているようで、うまくまとまらなかったり、ずさんだったりするものです。特に、行き詰まったときは、紙に書き出して思考を整理してみると、新しい展開を見つけられたりします。これも心理学の手法ですが、例えば、絶対試験に落ちると思いこんでしまったとします。そういうときに、何%の確率で落ちると思うかを書いてみる。なかなか100%とは書けないから、90%と書いたりするんですが、そこで残り10%について考えてみるんですね。10%の可能性を考えて書き出すことで、また違う発想ややり方を発見できたりするんです。

書き留める、という意味では、手帳もひとつのツールですよね?

そうですね。ただ、手帳で一番重要なのは、書くことよりも、書いたことを普段からよく見るという習慣だと思います。もちろん、それは携帯でも、PDAでもいいんですが、書いてチェックするための道具だということを忘れないようにしてほしいですね。
 

多忙ぶりを考えると意外ですが、お使いなのは名刺サイズの小さな手帳ですね。

いつも持ち歩ける大きさじゃないと意味がないから、これくらいコンパクトなほうが使いやすいんです。基本的に手帳に書くのは、スケジュールがメイン。あとは絶対忘れてはいけないこと、大事なことを書く、という使い方です。メモをした紙を挟んだり、名刺を挟んだりもしますが、それもこまめに整理していますね。


小さなサイズでも、手帳を有効に活用できる秘訣は?

何でもかんでも書こうとしないことでしょうね。いろいろ書こうと思うと、必然的に大きな手帳が必要になって、持ち歩かなくなりますよね。それよりは、携帯性のよい手帳に、絶対必要なことだけを書くようにする。もう一つは、完全に手帳だけに頼り切らないこと。手帳に書いてあることを見て、記憶を呼び起こせるということが大事です。そういう意味では、手帳って「頼りすぎてはいけないけど、なくてはならいもの」という存在ですよね。